●『聖夜のお茶会』
12月25日、と言えばもちろんクリスマス。 家族で仲良く過ごす者や、1人で静かに過ごす者、友人達と楽しく過ごす者、人によって様々な過ごし方があるだろう。 だが少なくともこの日に男女の2人組がいれば、それは誰でも恋人同士だと思うに違いない。 だから喫茶店で仲良くクリスマスケーキを食べている椋と遊鳥も、他の客の目からはそう見えていたことだろう。 本人達にそういう意識は全くないのだが。 「そういえば椋さんと出会ったのって、ちょうど1年前のクリスマスだったよね」 遊鳥が話を振ると、椋も懐かしげな目つきになって思い出を語り出す。 「銀狼の騎士団のクリスマスダンスパーティーで、2人して出遅れた、あれかぁ」 くすくすと笑い合う2人は今、いわゆるデートをしている。 しかしあくまで仲の良い先輩と後輩であり、恋人というわけではない。 けれど、ある意味下手なカップルよりも楽しげに、語り合っていた。 「もうクリスマスも終わりかけでお開き、って感じでさ。それで一緒に踊ったんだよね」 「あの時、遊鳥さんに誘って貰えなかったら、こんなに仲良くならなかったのかな」 「そう思うと、運命の日みたいだね〜」 椋は少しだけ紅茶を飲んで、その日を思い出す。 結社のパーティーでの出会いが最初。 それからは、遊鳥と色々なことをした。そう、例えば……。 「夏は2人で蛍見に行ったよね」 椋がそう言うと、遊鳥は思い出すように目を細め、微笑んだ。 「行った行った。私も椋さんも、田舎育ちだから見たことはあったんだけどー」 「うん。でも、あんなにたくさんの蛍を見たのは、初めてだったかも」 語れば、思い出は尽きることがない。たった1年だけれど、それだけ多くのものを、積み上げてきた。 ふと、椋はある約束を思い出して、カップを机に置いた。 クスリと笑って、遊鳥に尋ねる。 「あ、そうだ。覚えてる?」 「うん? 何?」 「遊鳥さん、手料理作ってくれるって」 そう、確かに遊鳥はそう言ってくれたはずだ。 今度はお弁当を作ってお出かけ出来たらいい、と。そう話して。 「楽しみにしてるよ?」 椋の言葉に、遊鳥はにこりと笑って返した。 「うん!」 さぁ、次は何をしよう。どこへ行こう。 まずは遊鳥の手料理を持って、どこかに出かけて。 それから……彼らの思い出は、きっと、これからも増えていく。 今日もその内の1つ。 来年もこうやって楽しく過ごせたらいい。 そう願いながら、椋は遊鳥と思い出話に花を咲かせる。 2人の聖夜のお茶会が終わるには、もう少しかかりそうだ。
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