●『驚きと温もりと』
いまにも雪が降り出しそうな空を見上げて蘭は白い息を大きく吐き出した。蘭は大きなクリスマスツリーの下でソワソワしながら雅人を待っていた。 「こういう時って早く着きすぎちゃうのよね。……あはは、けっこー緊張するなぁ」 蘭は寒さで体を小刻みに震わせながら、同じように待ち合わせをしていた女性が恋人と楽しそうに去っていく後ろ姿を、うっとり眺めて吐息を漏らした。すると突然、身体がふわりと宙に浮くような感覚を味わった。 「わわっ!?」 後ろからそっと近付いた雅人が蘭を優しく抱き上げたのだ。蘭が気がついた時には雅人にお姫様抱っこをされていた。 「お待たせしたかな?」 雅人が蘭の耳元で囁く。 「わわっ!? いきなり抱きかかえたらビックリするってばっ」 蘭の耳が真っ赤に染まる。雅人はいつも通りの冷静な表情に僅かに微笑を浮かべて、とても驚いた表情をしている蘭をじっと見つめた。 「メリークリスマス」 雅人は腕の中でじたばたする蘭にはお構い無しで、プレゼントの包み紙を蘭の胸の上にそっと載せた。 「あ……ありがとう。わ、わたしもプレゼントあるの」 蘭は紙袋を雅人に差し出すが、両手が塞がっていることに気付いて、紙袋から銀のラインが入った黒地のマフラーと手袋を取り出した。 「メリークリスマス」 蘭はマフラーをそっと雅人の首に捲き付けると照れた様子で見つめた。 「ありがとう。暖かいよ」 雅人が眼鏡の奥の目を細める。 「プレゼント、開けてもいい?」 蘭が仰ぎ見るように雅人を見ると、雅人がこくりと頷く。蘭は丁寧に包装紙を剥がして箱をゆっくりと開けた。 「あれ、このネックレスって……」 「うむ、蘭の飾りがついたものを運良く見つけられたからな」 「凄く嬉しい! 花の中じゃ1番好きな花だもん」 蘭は目を輝かせて喜んだ。すぐにネックレスを付けると、首もとに輝く蘭の花の飾りをそっと指先で撫でつける。それから、うっとりした目で雅人を見上げた。 「ありがとう」 雅人は蘭の言葉に応えるように唇にキスをした。途端に蘭の顔が真っ赤になる。そんな蘭の様子に雅人の目が眼鏡の奥でまた細くなる。それから悪戯そうに微笑んでみせた。言葉にはしないがお返しのキスを催促しているのが蘭には分かった。 「唇には……ココではちょっと恥ずかしいからまた後で!」 蘭は思い切ったように勢い良く雅人の頬にキスをした。 「既に自分からの時は唇にしているわけだから、あまり変わらない気がするんだが」 「それでもいいの!」 蘭が湯気が出そうなほど顔を真っ赤に染めて抗議する。 「ねえ、それよりそろそろ降ろしてよ。すっごく注目の的になってる気がする……」 「さて、どうするかな。ずっとこのままっていうのもいいんだが」 蘭の顔がまた真っ赤になったのを眺めて、雅人は柔らかく微笑んだ。 まだまだクリスマスの夜はこれからだ。
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