●『空木家サンタ〜言葉は、要らない』
「いらっしゃーい!!!」 今日も元気な紫唖に「お邪魔します」とまといは淡々と応じた。 日本風の紫唖の家……その、一室。 紫唖に促されてまといが通されたのは、外観から想像出来た通りの畳の部屋だった。 中央にこたつがあり、ぐつぐつと鍋が煮立っている。――かに鍋だ。見事なかにはなかなか大量に用意されている。 和室で、こたつと鍋。……そんな中、無理やり置いた感漂うクリスマスツリーがまといの目に映った。 今宵はクリスマス。男っ気のない二人は「楽しく過ごそう!」と、紫唖宅で鍋会をすることにした。
「座ってくださーいっ!」 紫唖が言うが早いか、まといはこたつに足を入れる。 のこのこと暖かいこたつと、湯気の立つ鍋。 早速かにに手を出すまといを咎めることなく、紫唖が部屋から出ていった。 かにと白菜を菜箸で突きつつ……まといは一人、勝手に鍋会を始める。 「じゃじゃーん! ですわっ!!」 開いた襖と、その声にかにをほぐしていたまといは顔を上げた。 クラッカーを持ち、サンタのコスチュームに着替えた紫唖の姿を一度見る。 顔を上げたまといに紫唖は満面の笑みを浮かべると、スカートの裾をチョンと持ってお辞儀をした。 「どうですか? どうですか?」 まといは紫唖の問いかけに瞬くばかりで、別段答えないまま視線を外すともくもくとかにをほぐす。 「……」 ちょっとばかりむっとして、紫唖はまといがほぐしたかにをばーっと平らげた。 「似合いますか?!」 まといの顔をのぞき込み、紫唖は問う。まといはその問いかけに瞬いた。 「……まあ、シアちゃんは何を着ても似合うよね」 まといの一言に紫唖はぱっと表情を明るいものにする。 「そうですか?!」 こっくりと頷きつつ、まといは紫唖に食べられてしまったかに……かにの殻に視線を戻した。 (「まあ、またほぐせばいいわね」) そんなことを思いつつ、かにに手を出す。 まといの褒め言葉に機嫌が良くなったらしい紫唖もこたつに座ると、かに鍋をつつく。 「おいしいですねっ」 にこにこ笑う紫唖。おいしくいただくかに鍋。 ――こんなクリスマスも悪くない。 まといは紫唖に頷いて応じながら、そんなことを思った。
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