●『Vivid Cristmas』
冬の夕暮れは短い、赤い光に追われるように校舎から生徒の姿が消える。 完全に陽が落ちる頃には、学校からすっかり人影が……消えていなかった。 銀誓館学園ではあちこちの教室に明かりが灯り、生徒たちの喧騒が外まで聞こえてくる。 校舎だけでなく、部室棟でも銀誓館の賑わいはおさまらない。 賑やかな部室棟の中に、結社『ガラクターズ同好会』の部室もあった。 色紙で作ったチェーンや白いモールなど、クリスマス定番の飾りが部屋中に飾り付けられている。 どこか形の崩れた飾りは手作り感が満点で、どこか微笑ましい。 部屋の中央に寄せられた机にはたくさんのスナック菓子が積まれ、ジュースも数種類が大きなペットボトルで用意されていた。 その中からシャンパン風の炭酸飲料を掴んだ一太郎が瓶を激しく振る。 ぐぐっと瓶の栓に力を込め……。 「メリークリスマス!」 赤いサンタの帽子までかぶった一太郎がノリノリで栓を抜くと、激しくジュースが飛び出した! 天井まで届くような噴水を満足そうに見上げ、一太郎は楽しそうに笑う。 「さぁ、パーティの始まりだぜ!」 机に置かれた箱の蓋を開けると、大きなケーキが姿を現す。 白いクリームの雪原に、サンタクロースとお菓子の家が乗った立派なクリスマスケーキだ。 美味しそうなケーキを目の前にして、一太郎が張り切ってナイフを手にする。 「これが男の料理だぜ、見ろ華麗なナイフ捌き!」 自信満々な一太郎の振るうナイフは、丸いケーキを『芸術的』に切り分けて行く。 「ちょっと、もうちょいきれいに切りなって!」 その様子に慌てて瑠美奈が止めようとするが、もはやケーキは元の形が本当に円だったのか? と、疑いたくなるような形に切り分けられてしまった。 「あ、瑠美奈。サンタとお菓子の家、どっちがいい?」 「サンタとお菓子の家って、あたしは子供じゃないんだぞ。……とりあえずお菓子の家」 無邪気に笑う一太郎に、すっかり毒気を抜かれた瑠美奈は、受け取ったケーキにお菓子の家を乗せてもらう。 自分用にサンタクロースを乗せた一太郎は、ようやく落ち着いて彼女の隣に座った。 「ちょいとロマンティックにゃ程遠いシチュでわりぃけど……、愛してるぜ、瑠美奈!」 瑠美奈がケーキを食べようとした瞬間、一太郎が彼女の方を向いて元気良く笑う。 「ばっ……そんなこと! そんなの、あたしだって……ああんもう、ケーキ食べるぞケーキ!」 真っ赤になりながら、ケーキにフォークを突き刺す瑠美奈。 まだまだ2人の騒がしいパーティは始まったばかりだった。
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