●『Decoration lovers』
床の上に散らばるのは、電飾や綿、星、サンタの人形にカラフルなボール。 べたりと座り込んでクリスマスツリーの飾り付けに取り組んでいるのは、刹那とシロガネである。 これが人生初のツリーの飾り付けとなるシロガネは、真剣そのものだ。時折刹那が話題を振っても、返ってくるのは「はい」とか「そうですか」といった生返事ばかり。 刹那はちぇ、と少々つまらなそうに呟いた。黙々と飾り付けを進めているシロガネの姿は、確かに可愛らしい。 (「けど、俺にも構ってくれ、なんて」) 大人げないなと自嘲気味に笑いながら、刹那はため息をひとつこぼした。 何かを思いついたのか、ふと刹那が楽しげに口角を引き上げる。周囲に散らばっている飾りの中から手にしたのは、一本の赤いリボン。 それをふわりとシロガネの首元にかけると、蝶々結びをして満足そうににっと笑う刹那。 自身の首元にかけられたそれに気付いたシロガネは、あきれたように小さなため息を吐いた。 「……何をしてるんですか。真面目にやらないなら、帰りますよ」 「や、可愛いと思って。……折角だし、ツリーだけじゃなく、シロも飾らせろよ」 対する刹那は、悪びれることなく真顔でしれっと答える。 刹那はすっかりあきれかえっているシロガネの耳元に唇を寄せると、不敵な笑みを浮かべながらそっと囁いた。 「――可愛いよ、シロ」 それから、シロガネの首元に結ばれたリボンをほどくように引っ張って、その端に軽いキスをする。 途端、シロガネは耳まで真っ赤になって口元を覆った。 「……な、……っに、言って……」 刹那の笑顔にさらに赤くなったシロガネは、その距離の近さに後ろ手をつく。 不意に指先に触れた硬い感触に首だけでふり返る。光を受けてきらきらと光る星の飾りを手にしたシロガネは、刹那の黒髪にそれを飾り付けた。 「刹那の方が、こういうのは似合うじゃないですか」 ふ、と表情を崩したシロガネは、やわらかく微笑みを浮かべる。 お互いの格好を見た刹那が、小さく噴き出した。 「……俺たちも飾り付けてどうすんだろうな」 「本当ですよ」 くすくすと笑い合う二人。自然と距離は縮まり、そして唇がゆっくりと重なり合う。 「Merry Christmas」 わずかに唇を触れ合わせたまま、刹那はささやくように言ってシロガネを抱きしめる。 (「――来年も、一緒に」) シロガネはその背に腕をまわしながら、そっと微笑んだ。
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