●『〜HollyNight〜今宵、君は俺の物』
セラフィナの実家、藤堂家では毎年クリスマスイブに、財界人を招いた盛大なクリスマスパーティを主催している。今までは顔を出さないセラフィナであったが、今回は彼女は父親に捕まり、出席せざるを得ない事になってしまったのだ。 「お前も10歳になったんだし、そろそろ社交界デビューしないとな、じゃありませんわ! 学園のクリスマスパーティじゃないと先輩に会えないんですのよ……!」 このままでは憂に会えずにクリスマスが過ぎてしまう。セラフィナは考えた末、苦肉の策として個人的に彼を実家のパーティに招待する事にしたのだった。
迎えた当日、愛らしい空色のドレスに身を包んだセラフィナであったが、彼女は早々と疲れ果ててしまっていた。 父親に連れられて各所の上層部にいるような人への挨拶回り。 (「何ですの。やたらと人の体をじろじろ見て……」) セラフィナは、年齢の割に発育が良かった。 青年実業家や先程のお偉いさん二世軍団からのダンスへのお誘い。 (「皆、目にドルマークとか円マークが浮かんでいるようにしか見えませんわ」) Shall we dance? の波状攻撃は断っても断っても、やむ気配はまるでない。セラフィナは頭を抱えたくなった。 嗚呼、やっぱり来るのではなかったとセラフィナが大いに後悔していたときである。彼女の目の前に、新たに近付いてきた青年が跪く。 「え……」 思わず、そんな呟きが漏れる。セラフィナの目の前にあるのは、彼女が会いたくてやまなかった人物の姿。憂が、セラフィナのすぐそばにいた。突然の出来事に、セラフィナは気が動転し、固まってしまう。 「お嬢様、ボクと踊っていただけますか?」 日頃からは想像できないような自信と余裕に満ち溢れた憂が、そっとセラフィナに手を差し出す。 「……セラフィナでよろしければ」 気が回らない中でも何とかそれだけの言葉を絞り出し、セラフィナは憂の手に、自らの手を乗せた。すると、彼はそっと彼女のその小さな手に軽くキスを贈った。セラフィナの白い手や顔に朱があっという間に差した。 そして、憂は他の二世軍団だのを尻目に、まんまとお嬢様をエスコートして行ってしまったのであった。
後日、セラフィナがその時の事を憂に尋ねると、彼は苦笑交じりに頬をかいた。 「あの時……ボク、本当に冷や汗で、びっしょりだったんだよ?」 そんな彼だったが、セラフィナは優しい笑顔を憂に向けた。 「頑張って下さって、ありがとう」 そう言ってから、セラフィナは憂の頬に一瞬、唇を重ねたのだった。
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