●『12月25日、戦士の休息』
月が、星が、薄明るく廃墟を照らす。 頬に刺さる凍えるような風から逃れようと、少女は傍らの大きな身体に身を寄せた。 先刻までの戦いの余韻など感じさせる事の無い静けさが、辺りを包んでいる。 「ラドック様……」 ぽつり、何かを確かめるように名を紡げば、大きくて――けれど優しい手が背を撫でてくれる。 そこでやっと、リリアの顔に笑顔が戻った。 「今日はクリスマスです。ニッポンではFestivalなんですよ」 知ったばかりの知識を披露しながら、凍える手で己のフランケンシュタインに再生手術を施す。 傷にまみれたラドックの身体に比べて、自分の身体はかすり傷一つ負ってはいない。 目の前の彼が、どれだけ自分を護りながら戦っていたのかと言う事が知れて、申し訳無さが胸中に浮かぶ。 謝罪と、感謝。愛おしさを全て篭めながら、彼女の指先が一針一針、丁寧に傷を縫合していく。 「オマツリの日です。だから、ラドック様……」 ――今日はもう、戦わなくていいんですよ。 そう、囁きながら、傷の癒えたラドックの大きな背に腕を回す。 酷い矛盾だ。自らゴースト達の巣食うこの場へと赴いておいて。そうして死霊達に襲われれば、彼は自分を護る為にどれだけでも戦うと言う事を知っている癖に。 「リリアもコタツでナベモノを食べてきました。美味しかったです」 クリスマスにと、誘いの手が無かった訳ではない。 今日は大事な仲間達と、大切な人達と過ごす特別な日だと聞いた。けれどそこにラドックはいないという事、仕方の無い事だと理解はしている。 ――それでも、気付けば自分は寂れたこの廃墟へと足を踏み入れていた。 「ラドック様……」 愛しいこの存在は、戦いの場以外ではこうして触れ合う事すら出来ぬ存在。 この場を離れ学園に戻れば、カードに封じてしまわなければならない。 寂しさは幾度も胸を押し潰す――けれど、理を曲げてまで自分の望みを押し通す事は自分には出来はしない。 「今日は、大切な人と過ごす日なんですよ……」 ぎゅう、と絡めた腕に力を篭めれば、無骨ながらも優しい腕が、それに応えるようにリリアを包んだ。 せめて、せめて今日が終わるまでは。 離れていた時を取り戻すようにラドックの身体に寄り添いながら、リリアは一度祈るように瞳を閉じて――そうして愛しい彼に向けて、柔らかに微笑んだ。
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