●『光と闇の誓い』
にぎやかなお茶会は一段落し、部屋の中はなごやかなムードに満ちていた。 席から立って友人同士で輪になって談笑したり、座ってケーキを食べたり、みな思い思いに過ごしている。 心地よい、人の声がそこかしこで溢れる会場を見回して、柚兎は菜種を探していた。 談笑していた菜種を見つけて、傍による。こちらに気づいた彼女は、柚兎の大好きな、ふうわりとした笑顔を見せてくれた。 「今、いい?」 「うん。どしたん?」 「ちょっと……」 そこで、気を利かせた友人たちに押し出される形で、菜種が輪の中から飛び出る。ごめんね、と一言断って、柚兎は菜種の手を取った。 そうして二人で連れ立って、例のヤドリギの下へやってきた。 「わぁ」 温室を出た途端、隣で菜種が小さく感嘆の声を上げる。柚兎も思わず目を見開いた。 目にうつったのは果てなく広がる夜天空。その中で一際輝きを放つのは、幻想的なまでに美しい月だ。 ふー、と吐いた息は白くなって空に昇る。冬特有の澄んだ冷たい空気が肌に気持ちが良い。 しかし上を向いていた柚兎は、同じように視線を上にしながら、菜種が手を擦り合わせてそこに白い息を吹きかけたりしているのに気づいた。 ちょっと考えて、名案とばかりに柚兎は菜種を抱き寄せた。 (「ちょっとでも温かくなればいいな」) 菜種は少しびっくりした顔を見せたが、目が合うとすぐに二人で笑いあう。 ひっつきながらしばらく二人でなんでもない話をしていたのだが、話題はいつしか壁に飾られたヤドリギのことになった。 クリスマスの日にヤドリギの下でキスをした男女は幸せになれる、らしい。そんな伝承を菜種が楽しそうに言って聞かせる。 しかし、ふと菜種が顔を真剣なものにした。 「それって、ほんと、……なんかな、って……」 恥ずかしそうに菜種がポツリと漏らした。真っ赤になった頬で、菜種が柚兎を見上げた。 「私、幸せになるなら……柚兎とが、良いな……」 伝承は所詮伝承。 それが本当かどうかなんて分かるわけもなく。 「……じゃあ、試してみようか」 ……分かるわけはないけれど。 「え? あ……」 柚兎の言葉に菜種は赤くなって頷く。柚兎はそんな菜種の頬を両手で優しく包み込んだ。 少しして、やっと聞こえるか聞こえないかの声で「うん」という返事。 軽く微笑んで、柚兎はゆっくりと菜種を自分の元へ引き寄せた。 寒い冬空とヤドリギの下。二人の唇と心だけが温かかった。 (「伝承が本当じゃなかったとしても。 僕が本当の事にしてしまおう」) そんなあいまいなものには頼らない。 この手を離さないように、しっかり握っておくだけだ。
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