●『White Christmas★重なるぬくもり』
その夜を二人で迎える意味を、ほのりは何度も反芻した。 学園でのパーティーを抜け出して、部屋。 そこには小さいながらもしっかりと飾り付けられたクリスマスツリーと、二人で食べるために用意したケーキ。 そして、そのケーキを一緒に食べる和真の姿。 今日はクリスマス・イヴ。二人で過ごす、聖なる夜。 二人だけの時間はきっと何よりも大切で、心が温かくて。満たされて……。 けれど、今はやはり真冬。しかも夜ともなれば、寒さも厳しい。 「寒いですねぇ、カーテン閉めておきますぅ」 言って、ほのりが窓へと近づく。二人のグラスを用意していた和真が笑顔で応えた。 窓の向こうに見える夜の街は、そこかしこに装飾の電灯が灯り、今日が特別な夜であることを全体で語っている。 その夜の中で二人、たった二人っきりでいられることが、ほのりは嬉しかった。 と、気がつくと、目の前をヒラリと落ちる白い羽根。 いや、違う。これは羽根ではない。
「……雪?」 ほのりが言うよりも先に、近づいてきた和真がソレを言った。 「綺麗だね」 彼はほのりの隣に立って、窓向こうの空を見る。天使の羽根を思わせる純白が、空からヒラリヒラリと、ゆっくり舞い落ちていた。 しばし、ほのりが雪にも取れていると、不意に手に感じた温もり。和真が、彼女の手の上にそっと自分の手を重ねていた。 「言っておくけど、ほのりの方が、綺麗だよ?」 「もぉ、そればっかり」 言うものの、心はくすぐったくて、頬が熱くなる。自然と笑みがこぼれてしまう。 冬の、たった一度しかない聖なる夜。自分の傍らには、一番大切な人。 彼の笑顔は、離れることなく、こんなにそばに。 「ねぇ、和真」 ほのりが小さな声で話しかけた。 「ん?」 首を傾げる和真の胸に、彼女は身を寄せて。 応えるように、和真もほのりの肩に手を回す。 ほのりは、幸せをそのまま形にしたような笑みをその顔に浮かべた。 本当に、幸せだから。 「ずっとずっと、大好きですよぉ」 和真が、当然だと言わんばかりにしっかりと頷く。 「僕もだよ。……ずっとね」 それは、確かめるまでもないことなのだろう。 だからこそ、確かめ合うのだ。 雪の降るとある聖夜、重なる手の温もりは何よりも暖かく。 一年に一度の特別な夜に、いつも通り、変わらず大好きな人といられる奇跡に感謝して。 二人は、身を寄り添い、雪を眺め続けた。 メリークリスマス――。
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