●『Exclusive Santa Claus』
クリスマスムード一色に染まっている喧騒の中を、天虹は走った。吐息は白いもやのようで、すぐに宙へと掻き消える。しかし待ち合わせの場所に着いたものの、碧の姿は見えなかった。 「アレ、碧いねェか?」 きょろきょろと周囲を見渡す。それらしい人影は見えない。まだ来ていないのだろうか。 「めりーくりすまーすっ!」 「……ン? なンか上カラ声が……って、えぇっ?」 頭上から明るい声が降り注いできた。おもむろに顔を上げてみる。そこにはサンタ服姿をした碧が、にししといたずらっぽく口角を上げていた。驚きで、思わずぽかんと口が開いたままになる。 「何してンだ、そンなトコで!」 「へっへー、ドッキリ成功ー! びっくりした? びっくりした?」 「ソリャお前、ビックリするだろよ……」 待ち合わせ場所にいないと思えば、まさか木の上に登っていたとは思いもせず。確かに驚いた天虹であった。そんな彼のリアクションが予想通りのもので満足している碧は、木の上からきゃっきゃっと黄色い声で笑っている。 「しかし、そンなに登りたかったのか、ツリー?」 「……去年ツリーに登れなかったし。それに折角のクリスマスだし、なんか普通にプレゼント渡すのもつまんないなーって思ってさ」 「あはは」 ぽつりと寂しそうにつぶやく碧の表情と、木に登りたかったという彼女の行動。そのミスマッチが可愛らしく思えて、天虹は柔らかく目を細めた。 「危ねェカラ降りといで。ホラ」 天虹は幹に腰掛けている碧を見上げたまま、す、と両手を広げる。 「サプライズプレゼントも良いケド、一緒にツリー見よーぜ? カワイーサンタサン」 天虹はへら、と穏やかに微笑む。碧はにっこりと嬉しそうに笑みを返した。 「サンタからのサプライズプレゼント! なんちゃって」 碧はぴょん、と軽やかに幹の上から飛び降りる。愛しい恋人が、満面の笑顔を向けながら降りてくる。天虹はその細い体躯をはしっと抱きかかえたと同時、キャッチの衝撃を受け流すため、くるるっと踊るように何度か横に回転した。 視界のすみにある周囲の景色が、メリーゴーランドのように回って見える。そのおぼろげな背景を背負って、自分の瞳にうつる互いの笑顔がある。それだけは夢のようにかすむことなく、笑んだ双ぼうにしっかりと映っている。 互いのぬくもりをひしと感じ合いながら、くるくる回る天虹と碧。白い吐息とともに、ゆかいな笑い声が口端からこぼれた。
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