●『サンタ(?)が街にやってくる』
12月の街は本格的な冬を迎え、空からは粉雪が舞い落ちる。 街ではすっかり定番の、恋人たちの待ち合わせ場所も雪が積もり始めていた。 そこで待つ人が、次々と入れ替わって行く中、セラフィナは腕を組んで時計を睨みつける。 「遅いです……先輩はか弱い恋人を、こんな寒空の中待たせるつもりですか!」 しかし、据え付けられた大時計の針は、先ほどからほとんど進んでいない。 もっとも、待ち合わせの時間はまだ30分以上も先なのだが……。 「まったく、それだから先輩は女心が分って無いとかヘタレとか言われるんです」 周囲で待つ人に、待ち合わせの相手が現れるたびに、セラフィナの不機嫌が増し、ぶつぶつと彼への不満を呟く。 音もなく雪が少しずつ勢いを増し、見上げる時計の針はゆっくりと約束時間へ進む。 「……ぅぅ、先輩早く来て下さい……」 時計の針が約束の時間迫り、入り口と時計を交互に見るセラフィナの体にも、うっすら雪が積もっていた。 1人で心細そうにして俯いてしまった彼女の前に、息を切らせて憂が駆けつける 「スマン、フィーっ。……待たせたか?」 チラリと時計を確認すると、約束まではギリギリセーフと言ったタイミングだったようだ。 だが、セラフィナは頭や肩に雪を積もらせたまま、一気にまくし立てる。 「先輩! 遅いですよ! いったい私がどれだけ待ったと……次待たせたら許しませんからね!」 先ほどの様子から一変した彼女は、笑顔で憂へと抱きつく。 「ぅぅ、先輩が待たせるからすっかり冷えちゃったじゃないですか」 抱きとめた憂の腕の中で、セラフィナがポツリと呟く。 「っとと……ゴメンな、フィー」 冷えた彼女の体を受け止め、憂がそっと彼女を抱き寄せる。 「……責任とって暖めて下さいっ」 憂の胸に顔を埋め、セラフィナが彼の背中に回した手で彼の体をぎゅっと抱きしめた。 「……ぁぁ。オレで良ければ何なりと」 セラフィナの勢いに滑り落ちた、彼女へのプレゼントの袋を握り直し、憂が小さな背中を抱きしめた。 待ち人きたる。 たくさん待った分だけ、会えた喜びは大きくて。 急いだ分だけ、抱きしめる身体がいとおしい。 2人のクリスマスは、今からが本番だ。
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