ルルティア・タカナシ & 城崎・弓場白

●『はなれていてもつながるこころ。』

 予備校のガラスドアを開けて、弓場白が建物の外に出ると外はもう真っ暗だった。
 バッグを背負いなおし、コートのポケットに手を突っ込むと、弓場白は黙々と帰途に着く。
 積もった雪が踏み固められて、つるつると滑る足元を見ながら、駅に向かって歩いていると、急に周りが明るくなった。
「……」
 足を止めた弓場白が顔を上げると、街路樹に巻かれたイルミネーションがキラキラと光っている。
 輝くクリスマスツリーの光を見ていると、学園でのクリスマスパーティ勉強会が思い出され、そして学園で分かれた、ルルティアの声が無性に聞きたくなった。
 弓場白は壁にもたれて、ポケットから携帯電話を取り出すと、手早く操作して耳に当てる。
 触れている壁が少しだけ、冷たかった。
 
 明かりをつけっぱなしにした部屋で、ルルティアはベッドの上で寝転び、枕元に置かれた携帯電話の時刻表示を不安そうに見つめていた。
(「そろそろ彼の予備校の終わる時間、電話をかけようか、メールを出そうか……でも、他に予定があったらどうしよう。もっと遅くなるのかも……」)
 考えばかりが頭をめぐり、なかなか行動に移せない。
 やがて、布団のぬくもりが迷う彼をゆっくりと眠りへと誘う。
 ウトウトし始めた彼の目の前で、携帯が光り、専用のメロディーを鳴らし始めた。
 慌てて、携帯電話を開いて耳に当てると、聞きたかった弓場白の声が彼の目を覚ました。
 
「あァルルさん……ゴメン、寝てたかな?」
「だ、大丈夫です、起きてました!!」
 慌てている彼の声に、弓場白はクスリと笑う。
 今だけ、冬の風の冷たさも忘れられるような気がした。
「や、帰り道歩いてたらサ、電飾綺麗だったから。ウン……一緒に見られなくってゴメンねって、なんか謝りどおしだなァ俺」
「うぅん、弓場さまそんなに謝らないで」
 ベッドの上で、ルルティアは遠くはなれた予備校の方へ視線向ける。
 申し訳無さそうな、顔をした弓場白の顔が窓に映ったような気がした。
「弓場さまがね、自分の将来のこと考えて……進路決めて……頑張ってる姿見てると、僕とってもうれしくなるから」
 そんな彼を、励ますようにルルティアが明るい声で電話に話しかける。
「そんなにきれいなの……? じゃあ、写真とってあとでみせて?」
 弓場白はツリーを見ながらささやかな彼のお願いを請け負う。
 携帯を握る手に、少し力を込めて、弓場白は彼へ思いを告げる。
「俺さ、今年でちゃんと受験生終わらせるから。だから、来年は一緒にどっか行ったりしようね」
「来年……うん、一緒に色々見てまわろうね。約束だよ?」
 電話越しでも、互いの微笑が感じられた。
 やがて通話を終えた弓場白は、光輝くツリーを写真に収め歩き出す。
 ルルティアも、携帯を枕元において、部屋の電気を消した。
 お互いに、携帯に映るツリーを覗き込んで微笑みあう姿を想いながら、クリスマスの夜は更けていくのだった。



イラストレーター名:zane