●『サンタのプレゼント』
しゃんしゃんしゃん……そんな効果音と共に、可愛らしい赤いサンタクロースの衣装に身を包んだ麻璃流が大きな袋と共にやってくる。 今日はクリスマスイブ。彼女が持ってきた大きな袋の中身はと言えば、言うまでもなく、子供たちのために用意したプレゼントだ。子供たちが喜んでくれそうなものを袋いっぱいに詰め込んで、麻璃流はさすがに夜というわけにもいかないので、明るい昼間の幼稚園を訪れたのだ。 ちなみに、彼女とプレゼントが乗っているのはソリではなく、リヤカー。そしてリヤカーをひくのはトナカイではなく、トナカイの着ぐるみを着こんだ喪作である。さりげなく手綱もついており、それを麻璃流が持っているのはご愛敬。 「もさきゅん早く持ってくるのですぅ」 子供たちのためにと急かす麻璃流に、彼女の気持ちを汲んで、真っ赤な鼻だけではなく顔も赤くして頑張る喪作。 「ったく、まりるが子どもたちよりはしゃいでどうすんだ」 彼らの姿を見て、その到着を今か今かと心待ちにしていた子供たちが一斉に集まってくる。 「にゅふふ、私がサンタさんなのですぅ。皆はよい子にしてたですかぁ?」 喪作トナカイの曳くソリから降りた麻璃流サンタは、集まった子供たちに笑顔でお約束の質問をする。そうすると、全員が笑顔と共に大きくかわいらしい返事を麻璃流にする。小さな手もぶんぶん振られて、彼女へのアピールは万全だ。 「はわぁ、よい子ばかりでサンタさんも嬉しいのですぅ。それじゃあ、よい子のみんなにはサンタさんからプレゼントなのですよぅ」 そんな子供たちに、麻璃流は満面の笑顔と共に一人ずつに可愛らしく、もしくはかっこよく包装したプレゼントを手渡していく。 麻璃流の満足そうな様子を見守りながら、喪作も思わず頬が緩んでしまう。 やがて、子供たち全員にプレゼントも配り終えた麻璃流に、喪作がまだ少し頬を緩ませたままで声をかける。 「お疲れ様、まりる」 喪作は柄にもなく、麻璃流へ労いの言葉を贈る。 「サンタのまりるも可愛らしいぞ。メリークリスマス♪」 彼の言葉に、麻璃流は一瞬きょとんと目を丸くした。 「はわぁ……もさきゅんが珍しくほめてくれたですぅ。にゅふふ、嬉しいですぅ」 素直に喜ぶ麻璃流の姿を見た喪作は、こんなことを思った。 (「……このまりるの笑顔が俺へのプレゼント、かな?」) 麻璃流が喪作のためだけに見せた笑顔は、彼の記憶の中の宝物として、こっそりしまわれたのだった。
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