●『おやすみなさい。』
冬だというのに、今日は暖かかった。 奈緒の座るテーブルへも、午後の日差しが存分に降り注ぐ。 「今日はあったかくて良かったなー」 向かい側へ座る空色に向かって、話しかける口調も日差しと同じように穏やかだ。 「うん、でも、凍えるくらい寒いのも好きだな。誰かとくっつくととってもあったかいから」 同じく日差しを浴びて、空色もその温かさに目を細める。 2人の間に置かれたテーブルの上には、クリスマスツリー用の飾りが絡まってごちゃごちゃとかたまりになっていた。 空色が見守る中、奈緒がその飾りと格闘する。 たくさんの小物が細い糸で繋がれた飾りは、糸が複雑に絡まり知恵の輪のようだ。 1つ解いては、2つ絡まり、長く伸びた糸の先を手繰り寄せて……。 何時の間にか、奈緒にも糸が絡まり、飾りの一部のようになってしまっている。 「このままクリスマス奈緒ツリーとして飾り付けたらどうだろう」 奈緒の髪に絡まる糸を解きながら、空色が真顔で提案する。 「だって奈緒さんがきらきらしてとても綺麗だ」 にこりと、笑いながら空色は日差しを受けて光る糸に指をかける。 「や、このまま飾られても困るから。……皆が来る前に、急いで作っちゃおうぜ」 本当は、もっと皆が遅れてきても良いのに……と、続く言葉を飲み込んで奈緒も絡まる糸を解していく。 真剣な表情で糸と格闘を続ける奈緒の顔を、空色がこっそりと覗う。 時々笑わなくなる瞳、優しいお兄さん、大好きな人。 まだ、彼の奥まで踏み込むことは出来ないけれど、それでも彼には笑顔を憶えていて欲しいから、空色は笑顔で最後の飾りを解いた。 糸を頭から外そうとした時に、奈緒の頭が大きく揺れて空の手に髪が触れる。 「……?」 顔を覗きこんでみれば、温かい午後の日差しのせいか、それとも慣れない作業のせいか、何時の間にか奈緒は寝入ってしまっていた。 苦笑しながら、空色は彼の背中にブランケットをかける。 どんな夢を見ているのか、奈緒の寝顔は穏やかそのもので、微笑んでいるよう見えた。 空色が奈緒の手にそっと、自分の手を重ねると、温かい手を奈緒がやんわりと握り返す。 (「夢でもきっと逢えるように」) そう願いながら、空色もゆっくりと瞼を閉じた。 穏やかなクリスマスの午後、重ねた手のぬくもりを感じながら。
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