●『緋色の手をとって…』
銀誓館学園で行われたクリスマスパーティ。静かな時間を大切にするためにと趣向を凝らされたパーティは、二人の距離をぐっと縮めてくれたように思える。 その縮まった距離に余計に照れて緊張してしまうのも確かで。 特にシャイな進護は始終ぎこちない動きだったけれど……帰り際に意を決して、触れたかったまひるの緋色の手袋へと手を伸ばした。 不意に指先に触れた温もりにまひるの鼓動もとくん、と高鳴る。とてもとても嬉しくて幸せな気分に包まれたまひるは、進護の手をそっと、けれどぎゅっと、大切そうに握り返した。
帰り道、まひると進護は手を繋いだまま、寄り添いながら誰もいない公園を歩いていた。 いつも元気なまひるが今日は静かに、嬉しそうにはにかんでいる。 やはりデートは男がリードしないと、という友達からのアドバイスを思い出し、少しでも自分が盛り上げようと今日の出来事のひとつひとつを思い返しながら進護は口を開いた。 「ブッシュ・ド・ノエル、美味かったな」 「うん、美味しかったね♪」 「まひるの矢絣姿、すごく似合ってて可愛かったぜ」 「えへへ、照れちゃうな」 大正浪漫風にしつらえられたパーティで貸し出された矢絣袴の衣装が、本当によく似合っていたと進護は思い出す。その言葉ひとつひとつにまひるは嬉しそうに答え、 「あーん、がすごく楽しかったよ」 進護をまっすぐに見詰めて、にっこりと微笑んだ。 差し出したケーキを進護が美味しそうに食べてくれたこと。自分にも「あーん」して欲しいとお願いしたこと。して貰ったはいいけれど、それがとても恥ずかしかったこと。 まだ、ドキドキしている。 それは初めての大正浪漫が楽しかったから? それとも……目の前の大好きな人を見、まひるは思う。 大正浪漫もとても素敵で、とても楽しかったけれど……彼とじゃなければ、きっとこんなにドキドキしない。きっとこんなに楽しくならなかったはずだ、と。
楽しい時間はあっという間、別れの時間が近付いてくる。 「また、誘っても……」 「進護さん、また一緒に……」 別れ際に言い掛けた言葉が重なり、照れたように二人で微笑み合う。 その瞬間、ふとまひるの脳裏に思い出されたもうひとつのイベント。 「まだ早いよね。今から、イルミネーションを見に行かない……?」 「うん、いいな。行こうぜ」 冷たい夜の風も、二人なら寒くない。 楽しいクリスマスは、もう少しだけ続くのだった……。
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