●『聖夜に・・・』
「うぉ! もうこない時間か!」 カイルは走っていた。せっかくの零香との待ち合わせだというのに、遅刻してしまう! 一方、駅では既に零香が待っていた。駅の時計は、既に待ち合わせの時間を過ぎている。 「カイル遅いですね」 行き交う人達を眺めて、そう呟く。その時、向こうから必死で走ってくるカイルを見つけた。 「悪い零香! 遅れてもうた!」 息を切らせて言うカイルに、零香は仮面を外して、笑顔を見せる。 「いいですよカイル。少し遅れただけですし」 その笑顔を見て、カイルも安心したようで、笑顔になる。そして、零香の手を握って、 「そんじゃ、いこうかの!」 二人で歩き出す。零香は、再び仮面を付ける。その仮面の裏では、本当に幸せそうな笑顔をしていて。カイルの手を、そっと握り返すのだった。
今日は二人で遊園地デート。二人は色々なアトラクションに乗っていた。零香は表情が仮面に隠されていてわからないが……楽しんでいるということは雰囲気でわかる。カイルは……表面上は楽しんでいるようなのだが、どこかそわそわしているようだ。それもそのはず、カイルは今日、零香に伝えることがあってデートを申し込んだのだから。そのために用意した、鞄の中の『ある物』を気にして、ずっと心臓がバクバクいっているのだ。
「そろそろ、パレードの時間ですね」 零香の言葉で、カイルはもうそんな時間だと気がついた。そして、零香の手を引いていく。 「カイル、パレードはあっちですよ?」 「それよりもっとええもん見せたるからついてきい」 パレードとは違う方向に、カイルは歩いていく。零香は戸惑っている雰囲気が感じられるが、素直についていく。 着いた場所は、噴水の前。パレードの方に人が集まっているため、この場所にはあまり人がいない。 「ここに何がある……」 ――ドーン! 零香が不安そうにしていると、背後から大きな音。振り返ると……夜空に、大きな花が咲いている。 「花火……? これを、見せたかったんですか? 綺麗ですね」 「零香の方が、もっと綺麗やで」 「えっ……?」 突然のカイルの言葉に、零香は照れてしまった。そして、カイルは真剣な表情で零香を見つめる。 「零香に渡したいもんがあるんや」 「?」 零香は、その真剣な雰囲気に少し緊張しながらも、首を傾げる。そして……カイルは、鞄の中に入れいてた『ある物』……指輪を取り出した。 「零香、結婚してくれんか」 その言葉に。その真剣さに。零香は、仮面を外して微笑んだ。 「ありがとう、カイル……。本当に嬉しいです♪」 とても嬉しそうに。零香は、カイルに抱きついた。
その後、カイルの隣で幸せそうに花火を眺める零香の左手の薬指には、指輪が光っていた。
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