●『聖夜の約束』
12月24日、クリスマス・イヴ――。 公園の街灯の下、チラチラと降る粉雪を見詰めながら、佇んでいるドラガンの姿があった。カーキ色のきっちりと前を閉じたモッズコートとカーゴパンツを着込み、防寒対策は万全。 それでも、頬に触れる空気は冷たい。 白い吐息を漏らしながら待つドラガンの耳に、規則的なハイヒールの足音が届いた。 音の方へと視線を向けると、暗闇の中から現れたのは、雪のように白いふわふわのドレスと、その上から白いコートを羽織った舞踏会の衣装のままの薙砂の姿。藍色の艶やかな長い髪を飾る雪の結晶の髪飾りが、キラキラと輝いて目を引く。 「こんな時間に呼び出して悪いな」 本当に申し訳なさそうな彼の言葉に薙砂は笑んで首を横に振る。ドラガンはホッとしたように表情を緩めると、前もって用意していたプレゼントの包みを薙砂の方へ差し出した。 「今まで色々と、貰ってばかりだったからな……受け取ってくれ」 思いがけないクリスマス・プレゼント。 薙砂は驚いて……おずおずと、白い指先で贈り物を受け取った。赤い包装紙の可愛らしい包みを眺め、大切そうに抱き締める。 「ありがとう。すごく……大事にするね」 「喜んでくれてなによりだ」 ドラガンの嬉しそうな笑み。 それとは逆に、ずっと……誰にも話せなくて、胸の中にしまい込んでいた現実が薙砂の心を締めつける。こんなに嬉しいのに、とてもとても哀しくて涙が溢れる。でも、 「私」 どんなに辛くても、今の気持ちを全て伝えなくては。 後できっと、もっと後悔するから。 「2月から休学するんです……」 「なん、だと……?」 あまりにも突然すぎる薙砂の告白に、ドラガンは驚いて瞳を見開いた。 誤解されたくなくて、薙砂は必死に言葉を紡ぐ。 「父が倒れて実家に帰ることになって……」 クラスで初めて言葉を交わした人。気さくで、とても優しくて……いつの間にか、かけがえのない存在になった。他愛のない会話、楽しかったソフトボール大会、大切な記憶がいくつも思い出される。 こんなにたくさんの素敵な思い出が作れたのは、彼が居てくれたから。 「ドラガンがクラスメイトで良かった」 今までもずっと言いたくて……けれど、言えなかった言葉。 「ドラガンが一番好き……大好き!」 不意に力強く抱き締められ、薙砂はぱちくりと瞳を瞬いた。 すぐ傍に、ドラガンの澄んだ青い目。 「俺も薙砂のことが好きだ! 大好きだ!!!」 ドラガンの強い口調が、薙砂の心も強くしてくれる。同じ想いでいてくれたことが嬉しくて、薙砂の大きな瞳からはさらに涙が零れ落ちた。 「待ってるからな」 薙砂を抱き締める力がさらに強くなる。 彼の言葉に薙砂はこくりと頷いた。 「絶対に戻ってきます! だから……」 それ以上の、言葉は要らない。 どんなに遠く離れても、二人は強い絆で結ばれているのだから。
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