●『キャロル・フォー・ユー』
クリスマスパーティーも終わり、香夜と類は二人で待ち合わせて帰ることにしていた。 街は、クリスマスイルミネーションや、キラキラと電飾のついたクリスマスツリーでとても華やかな街並みになっていて、見ているだけで二人の心はワクワクしてくる。 そんなイルミネーションを抜けて二人は、ツリーを見上げながら、少し遠回りして家路につくことにした。 だって、少しでも一緒にいたかったから。 愛しい人と。
「ララララ、ラララ、ララ、ラララ♪」 不意に類が一曲のクリスマスソングを口ずさむ。 「……類さんは、本当に楽しそうですね。クリスマスソングが思わず零れるなんて、クリスマスは素敵ですね」 香夜に微笑まれながら言われ、類は香夜を見上げて微笑むと香夜に質問を投げかける。 ほんの何気ない質問。 「香夜さんは、どんなクリスマスソングが好き?」 些細な質問だったのだが、香夜は黙ってしまった。 「香夜さん?」 尋ねられた香夜は少し困ったような表情を浮べ、緩く首を振る。 「……すみません、私は、こうしてクリスマスを楽しめる様になったのが去年からなので、クリスマスソングというのに詳しくないんです……申し訳ありません。 すまなそうな顔に優しげな微笑を浮かべ香夜が答える。 「……そうね。去年が始めてだったものね」 類の胸がちくりと痛む。 負い目……とまでは行かないものの類の胸が疼く。 当り前のようにクリスマスが廻ってきていた幸せだった自分のの今までと、クリスマスソングすら聞く事の無かった香夜の今まで。 比べるべきものではないことは分かっている。 目の前の青年の過去が自分には辛いものに思える。 しかし、そんな心の内を表に出す類では無かった。 「でも、これとか、聞いた事ないかしら……?」 二人で分ち合える音を探して、類の口からメロディ沢山のメロディが流れていく。 童謡、ポップス、定番のキャロル。 何曲唄っただろう? クリスマスの曲は幸せな曲が多いから、唄っている類も知らなくても聞いている香夜も自然と笑顔になる。 そして、何曲か類が唄っていると、香夜が突然声を上げる。 「……あっ!」 そのメロディを聞いた時、楽しかった光景が思い返された。 丁度、去年のクリスマス、今年と同じように類と過ごした帰り道。 街角から流れてきたメロディ。 今年も類と一緒にクリスマスを迎えられたことに幸せを感じながら、クスクスと笑う。 香夜はその記憶をそっと手繰り寄せ、類の歌声に重ねるようにその曲を口ずさむ。 そんなに長くない曲、それでも唄っている間幸せだった。
二人は歌い終える見つめ合い、楽しげに笑いあう。 「あは……!」 「楽しい、ね……」 違う道を通って生きてきてそれでもこうして巡り会い、今もこうして隣に居る。 その事が無性に嬉しくて、二人はそっと心のなかで囁いていた。 (「ずっと、一緒に……」) 二人のささやかな、心からの願いだった。
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