●『二人で過ごす、初めての』
クリスマスの日、待ち合わせ場所へ急ぐ。 すでに待ち合わせの時間を少々過ぎてしまっている。いつもの並木の下でに佇んでいる桃色の髪を認め、狼也は彼女の名前を呼んだ。 長いマフラーを揺らし、刀美が振り返る。 「おーそーいー!」 不機嫌そうに眉根を寄せて、頬を膨らませる刀美。 「ごめんっ悪かった!」 申し訳なさそうに、頭を下げる狼也。 けれど、ちょっとやそっとで刀美の機嫌は直らない。 だって、今日はクリスマス……特別な日なのだ。それも、二人で過ごす初めてのクリスマス! それなのに、遅刻するなんて。 「ごめんって……!」 「許してあげてもええわ」 ひたすら謝罪の言葉を口にする狼也から、視線を外す刀美。 「そのかわり……」 「そのかわり?」 「……キスして」 「え?」 自分から言うのはなんだか恥ずかしい。つぶやくような刀美の声に、思わず聞き返す狼也。 「キスしてくれたら許してあげてもええわ!」 もう一度、今度は少し怒ったように言う。恥ずかしいこと、何度も言わせないで欲しい。 刀美の唇から零れる予想外の言葉に、狼也は思わず驚いて、ぱちくりと瞳を瞬いた。 「わかった」 けれど頷いて、上目遣いに狼也を見上げる刀美の不機嫌な唇に唇を寄せる。……しかし、二人の身長差は約45cm! ちょっと、やりにくい。 その格好のまま、しばしの間。
狼也はちょっと躊躇ってから……刀美の身体を軽々と抱き上げた。 「わっ狼也!?」 いわゆる、お姫様抱っこ、というやつだ。いつもは離れている狼也の顔がすぐ近くにあって、刀美は思わず真っ赤に頬を染めた。 優しい吐息が肌に触れる。 鼓動の音が聞こえてしまいそうな気がした。 「ホント、ごめんな」 狼也の真剣な、まっすぐな瞳に吸い込まれそうで、目を閉じる。 桃色の柔らかい唇に、ゆっくりと唇が重ねられた。
クリスマスデートに、ちょっとしたエッセンス。 遅刻されるのは癪だけれど、こんな想いが出来るのならそれも悪くない。 二人の初めてのクリスマスは、楽しくなる予感に満ち溢れていた。
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