三笠・瑠琉 & 允雪・守元

●『星の下、君と一緒に聖なる夜を』

 そっと吐き出すそのたびに、息は白いもやとなって夜風に流されていく。
 ほかに人影もない場所に、二人の吐息だけがかすかに揺れる。
 白いブーツを履いた瑠琉が小さく足踏みをするのに合わせて、コンクリート上の冷気が揺れる。その姿は、目に見えない冷気と一緒にダンスをしているかのようだ。
 守元は、そんな彼女の姿を見て、自分の首に巻いていた白いロングマフラーを解く。
「ほら……これ、一緒に使おうか?」
 守元は長いマフラーの一方を、瑠琉の細い首にそっと巻き付ける。雪の花を包もうとするかのような、慎重な手つき。
「座ろうか」
 二人は寄り添うようにして、地面の上に腰を下ろす。
 瑠琉はさきほどから胸元に抱えていた白い紙箱をゆっくりと開く。
「おぉ――本格的だな。うまく作ってるじゃないか」
 守元は箱の中のケーキを見て、思わず感嘆の声を上げる。瑠琉の抱える小箱の中身を想像できないほど野暮ではない。しかし実際にそれを眼にすると、何ともいえず嬉しくなる。
「……えっと、ちょっと形悪いかもだけど」
 瑠琉は箱の中から、ケーキを取り出す。ブッシュドノエルと呼ばれるクリスマスケーキだ。
「……がんばって作ったの」
 ナイフで切り分けたケーキを皿に載せて、守元に手渡す。
 瑠琉は期待と不安の入り交じった眼で守元を見つめる。
 守元は自分でもそうと意識しないほど、ごく自然に瑠琉の頭をなでていた。
「むぃ……」
 瑠琉は、されるがままになっている。
 帽子と髪からほんの少しだけ覗く彼女の耳は真っ赤だ。
 瑠琉は、緊張のせいか震える手でなんとかフォークを操り、自分の皿の上のケーキを一口大に切り分ける。
「……はい、どうぞ」
 瑠琉は切り分けたケーキをそのまま想い人の口元に差し出す。
「あーん」
「――あーん」
 守元は少しだけためらったあと、顔を赤くしながらも口を開ける。
「……うん。おいしくできてるよ。それじゃ、お返しに」
 守元は器用にケーキを切り分け、瑠琉の口元に運ぶ。
「む……むぃ……ちょっと照れるの……あーん」
 瑠琉はケーキをゆっくりと味わう。念のためにと味見したときより、ずっとおいしく感じる。
「うまいな」
「……うん」
 そんな風にして、互いにケーキを食べさせ合う。
 瑠琉は隣に座った守元の身体にもたれかかる。
 二人の身体の触れあった部分がじんわりと暖かくなってくる。
 不意に二人は無口になる。互いの体温と、かすかな息づかいだけを感じる。
「……このまま、ずっと一緒がいいな」
 瑠琉が独り言のように呟く。
「来年もまた一緒に来ような」
 守元は、瑠琉の小さな手を握りしめる。
 痛いくらいに冷え切っていた指先が、互いの温度で少しずつ少しずつ暖まっていく。
 二人は、互いの手の温かさを感じながら、いつまでもそうしていた。   



イラストレーター名:柾木見月