頸城・和泉 & 氷見・千里

●『Holy Night』

 雪の降りしきる、クリスマスイヴの夜。
 校庭に立てられた、大きなもみの木のツリーの下で待ちあわせ、相手にたった一つだけの手作りカードを渡す。渡された相手は、キスのお返しをするのが決まり。
 もしキスをもらったら、きっと二人は幸せになる。そんな噂が学園内に流れていた聖夜。
 千里と和泉は、お互いに恋人同士だと思っている仲だけれど、ちゃんと口に出して「恋人になって下さい」とお願いしたことはなかったと思う。少なくとも、和泉はその覚えは無い。千里の方から、言ってきた事も無い。
 今更だけれど、こういうことははっきりさせたいと思った和泉は、その夜千里を呼び出した。
 待ち合わせの間、胸が高鳴り、手に汗がにじんだ。冷たい風が吹きつけているのに、この間だけはやけに暑く感じられる。それほど待つ事も無く千里がやってきて、和泉は手作りカードを手渡した。
 カードは猫変身した千里が、『和泉がいつも巻いているマフラー』を巻いている所を模したもので、開くと青猫がぴょこっと立ち上がった。

『千里のことが大好きです。ずっと側にいさせて下さい。和泉』

 カードに書き込まれた、暖かな思い。それを、和泉はしっかりと口に出して伝えた。
「千里のことが大好きで、ずっと側にいたいから……恋人になって下さい」
 普段無表情な千里が、頬を桜色に染めて笑顔を見せる。そしてクリスマスプレゼントに用意した常盤色のマフラーを和泉の首に巻く。マフラーは手編み。初めての編み物で、所々固く編まれたところがあるが、心のこもったたった一つのマフラーだ。
 マフラーを巻くと、それをそのままくいと自分の方へ引き寄せる千里。
「返事は……」
 背伸びをして、和泉と唇を重ね合わせる。その唇が離れるまでの、十秒にも満たない時間。そのほんのわずかな間、和泉はまるで時が止まったかのような感じがした。思考が止まり、肌を刺す寒さも、今にも弾け飛びそうだった胸の鼓動も、感じなくなった。
「……もちろん、はい……だ」



イラストレーター名:ほてやみつえ