九龍・幽鬼 & 四条・美月

●『雪の降るクリスマス』

 空は群青。星々のまたたきと真綿のような雪がふわりと舞い落ちる。
「今日は本当に楽しかったですね?」
 クリスマスパーティの帰り道、先ほどまでの楽しいひと時を思い起こしながら、美月は幽鬼へ話しかける。
 その幽鬼はと言うと、彼女に目を向けないように、景色に意識をやろうと必死になっていた。何故かと言えば、あっさりと表現すれば二人は腕を組んで歩いている。が、はっきり表現すると幽鬼の腕に美月が思いっきり抱きつくような形になっていたからであった。
(「腕を意識しちゃ駄目です、腕を気にしちゃ駄目です、頑張れ、私!」)
 そこは意地でも表には出さないように、心の中で念じに念じて、努力している幽鬼なのであった。数瞬の戦いの後、ようやっと幽鬼は言葉を紡ぐ事に成功する。
「はい、とても。来年もご一緒しましょうね!」
「ええ、来年も幽鬼君にエスコートしてもらえたら、すごく嬉しいです」
 幽鬼の答えに、美月はにこりと微笑んだ。
 やがて、いつもは何でもないはずの並木道にさしかかる。けれど、今日は特別。あでやかに色とりどりの光に着飾った、並木を見て、美月が幽鬼の腕を軽く引く。
「とっても綺麗……。ねぇ、幽鬼君? 折角ですし、ゆっくり歩いていきませんか?」
「え、ええ、構いませんよ。うん、それにしても綺麗ですね!」
 妙に浮ついた言葉遣いが、彼の戦いがまだまだ続いている事を表していた。
 お願いが通った美月は先ほどよりもほんのちょっぴり、幽鬼との距離を縮める。
「最後まで、素敵なクリスマスになりましたね」
 その満面の笑みは、幽鬼には可憐な花が咲き誇るかのように映った。先程までより、幽鬼は自らの制御が効かなくなっている。心臓の鼓動が、ばくばくと脈打ち、美月に聞こえてしまわないかという思いに幽鬼は駆られる。しかし、それを知ってか知らずか、変わらぬ笑顔で幽鬼を見つめる美月の姿がそこにはある。
「ほ、本当に……。こんなふうに過ごせているのも、美月様と一緒だからです」
「私も、幽鬼君と一緒だから、こんな素敵なクリスマスになるんだって思います」
 幽鬼と美月の視線が重なり合う。自然と、そのゆっくりとしていた足取りも止まり、少し、ほんの少しと二人の距離が近づいて行ったのであった。



イラストレーター名:ほてやみつえ