●『トナカイさんとサンタさん』
その夜、部屋の中はクリスマス一色に染め上げられていた。 「……こんな格好で大丈夫だろうか」 サンタ服に身を包んだ自分の姿を見回して、沙夜羅はふとそんな不安に襲われた。 見事なスタイルを誇る彼女が着ているのは、少々露出部分の多いサンタ服である。いっそ、サンタドレスとでも言うべき形なのだが、それもまた沙夜羅にはよく似合っていた。 トントンと、ドアがノックされる。 「沙夜羅、入っていいか?」 ドアの向こうから神室の声がした。 沙夜羅は浮かぶ笑みを堪えきれず、「早く」と答える。 ドアが開いて、神室が部屋に入ってきた。彼のその姿を見て、沙夜羅は一瞬動きを止めてから、不意に噴き出した。 神室が着ているのは、トナカイのぬいぐるみだった。頭まで覆うタイプではないが、代わりに頭に付けられたデフォルメされた角が、コミカルに映えている。 「神室、今年は少し面白い趣向だね」 ひとしきり笑って、沙夜羅は軽く握った拳で神室の胸をポンと叩いた。 「そうか? 沙夜羅はやはり、思った通りよく似合っているが」 神室は小さく首を傾げてそう言った。自分の格好のコミカルさにも気付かないくらいに、彼は真っ直ぐで真面目な男だった。 二人が揃ったところで、パーティーが始まる。 カーテンの開かれた窓から見える景色を眺めながら、二人はジュースを注いだグラスを、軽く合わせて乾杯した。 「三度目のクリスマスか……」 景色を眺めていた沙夜羅が、神室の方を向く。 「今年も楽しく過ごせるといいな」 その顔には、これまで付き合って来れたコトに対する感謝と感慨が笑みとなって現れ出ていた。神室が、そっと手を伸ばして沙夜羅の髪を軽く漉く。 「ああ、楽しもう」 それからはしばらく、二人だけの甘い時間が続いた。 料理を食べたり、ケーキを食べたり、それはとても満たされた時間だった。だが何より、隣に想う相手がいる。それが二人の心を満たしていた。 「ハハ、それ」 「うぁ、きゃあ」 おもむろに立ち上がった神室が、沙夜羅をお姫様抱っこの形で抱き上げた。突然のことで沙夜羅は慌てたが、すぐに彼に身を預けて、その顔を見上げる。 「か、神室?」 「驚かせたか? すまないな」 笑っている彼を見て、沙夜羅も穏やかな笑みを返し、彼の首に腕を回した。 「メリークリスマス。大好きだよ、神室」 呟いて、彼女は神室の頬にやわらかく口づけた。 「沙夜羅、メリークリスマス。俺も、愛しているよ」 神室もまた、応えるようにして彼女の頬にキスをした。 それは三年目のクリスマスの夜のこと。 サンタとトナカイだけが知る、幸せな時間の話であった。
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