氷采・亮弥 & 藤居・彩

●『Tender Voiceless』

 りん。ガラスでできた小さな鈴が、透き通った音色を奏でる。キャンドルの暖かな光が、亮弥と彩の二人だけの部屋をぽぅと優しく照らしている。今夜は言葉を封じる約束をした二人。そこは嘘を嫌う、真実だけが集う場所だ。
 時折、手の中にあるガラスの鈴を鳴らし合う。甘い言葉も楽しそうな笑い声もそこに響くことはないけれど、二人の心は繋がっている。
 彩は、自分の指に輝くそれに触れる。亮弥から贈られた指輪だ。その時の場面と気持ちが再び脳裏に蘇る。きゅん、と胸が切ないほどに甘い気持ちで満たされる。つい、瞳がうるむ。隣に寄り添う彩のようすに、亮弥はどうした、と問いかけるような視線を投げかけてくる。
 彩は瞳を幸せな涙でいっぱいにしながら、ふるると笑顔で首を横に振る。大丈夫だよ、と。たとえ嬉し泣きであっても、己の涙は亮弥にとって、一番苦手としているものだと承知しているから。
 亮弥は彩の表情から、彼女の想うものをくみ取った。だから亮弥は、彩の肩をそっと引き寄せる。泣くならここ、一番そばで。そんな気持ちを伝えたくて。
 キャンドルの灯火を受けて、きらりと銀色に輝く彩の指。そこには亮弥が贈った指輪がある。その手を亮弥は手繰りよせ、騎士のように小さく口付けをした。彩の頬にかぁっと朱が走る。
 悪戯っぽく亮弥が笑う。彩は、もう、と言わんばかりにすねた顔。そんな彼女の表情ひとつひとつまでもが、亮弥は可愛いと思う。
 ただ「愛している」と紡ぐのは簡単だけれど。今日、いま、この時だけは。言葉ではなく、心と指で。触れ合うすべてで、想いを伝えたい。
 冬を越えて春も、その先も、来年の聖夜も、遠い未来のこの日も、二人で迎えられますように。亮弥と彩は、見つめ、微笑み合いながらそう祈る。
 願いが叶うようにと、二人は静かに鈴を鳴らす。りんと響き合う鈴のおと。音色の違う鈴のおと。
 繋げた二人の想いの形、それは決してさび付かず。永久に輝く白銀に、これから先も彩られては。ずっとずっと、輝き続ける。



イラストレーター名:敷島えいり