オリアス・オーン & 霧島・蟲毒

●『夜の天幕。星の光彩。雪の瞬き。そして二人に祝福を』

 一年に一度だけのクリスマス、街は普段よりもずっと賑やかだ。
 イルミネーションがキラキラと光る大きな通りには、クリスマスソングが流れていたし、温かな光で満たされた家の中では、食卓にたくさんの料理が並べられている。
 周りを見渡せば、どこも賑やかで、少し落ち着かない。
 ちょっとだけ賑やか過ぎる街を出て、オリアスと蟲毒は夜の公園へと足を向けた。
「あ、……雪デスネ」
 暗い空から降り始めた雪が、オリアスの差し出した手の平へふわりと舞い降り、手を繋いでいた蟲毒は雪を追って空を見上げた。
 明かりの無い公園は、雪が降るその音さえ聞こえそうなくらいに静かだ。
「うん、雪だね。寒くはない? オリアスさん」
 クリスマスの喧騒から抜け出して、辿り着いた公園は少し寒い。
 彼女と繋いだ手の温もりを感じながら、蟲毒はオリアスへ訊ねる。
「手、とても……温かいデス」
 微笑む彼女に、蟲毒も頬が赤くなるのを感じながら頷く。
「温かいね。それに、雪の中で見るオリアスもとてもきれいだ」
「……ぁりがとぅ……デス」
 蟲毒の言葉に照れながら、彼女は小さな声で『ありがとう』を返す。
 2人の関係は学園祭での告白から始まり、そして、恋人同士で迎える初めてのクリスマス。
 その事に少しだけ緊張していた2人だが、雪の降る静かな公園の幻想的な雰囲気に、会話は自然と弾んでいく。
 そして、クリスマスの効果なのか、普段より蟲毒が積極的に話しかけていた。
「ねぇ……オリアスさん」
「何デ、しょう……カ?」
 そっと、繋いでいた手を放して、蟲毒がオリアスの正面から彼女をみつめる。
 1度深呼吸して、蟲毒が微笑みながら彼女に告げた。
「あらためて、自分は貴女が好きです」
 告白、そしてオリアスの頬が寒さ以外で朱に染まる。
「……蟲毒サン」
 オリアスの細い肩へ、蟲毒が両手を置く。
 ゆっくりと、互いに引き寄せられるようにして2人が近づく。
「私も、蟲毒サン……の、コト好き……デス」
 互いの息がかかるほどの距離で、オリアスが囁き、目を閉じる。
 蟲毒も目を瞑ると彼女の体を引き寄せ、水面に映った二人の影が、音も無く重なり合う。
 2人を結んだ温もりは、冬の風の冷たさを忘れるほどに温かかった。



イラストレーター名:西雅