ポム・プリス & 荒覇斗・郁也

●『初めての遊園地PM8:00』

 ポムは荒覇斗の様子を伺いながら、意を決したように彼に近づいた。
「のう、荒覇斗……。その、もしよければ私と遊園地に行かぬか?」
 そう口にしたポムの顔は少々上気している。ポムはこうして自分から誘うのが恥ずかしかったのだ。とはいえ、これを言い出せたのも、ポムの目には荒覇斗に最近元気がないように見えたからであった。彼に元気を出してほしい、その思いが彼女の背中を後押しした。
「ん……、いいよ」
 幸い、荒覇斗がポムの申し出を了承したので、こうして彼ら二人は遊園地にやって来ていた。
 二人は気の向くままに遊園地を暫し回り、今は観覧車に向かい合って乗っていた。ガラスを隔てたその眼下には夜の闇に映える光の輝きが広がっていた。イルミネーションに彩られたクリスマスツリー、興行に来ているサーカス団のテント、ジェットコースター、園内を巡る機関車の形をした乗り物――色んなものが、光に飾り立てられていた。そして、深々と夜空から舞い降りる白い雪の姿……。その綺麗な光景を二人とも眺めながら、しばらく時間が流れていった。
(「……一緒に来てくれたのは、よかったんじゃが……」)
 ただ、荒覇斗は知人のクリスマスパーティの後ということもあるのか、色々と上の空な様子であった。
「荒覇斗、最近あまり元気がなかった様に見えたが、どうかのぉ? 今宵は少しは楽しめたかの?」
 やはり疲れているのか荒覇斗の笑顔が見えないのを心配に思いつつ、ポムは微笑みながら彼にそう話しかける。
「……楽しい時間なんて結構簡単に過ぎてく」
 荒覇斗はそうぽつりと呟いてから、ポムの方を見つめた。それからややあって、彼は再度口を開いた。
「……色々と積もる事もある上に、少し気が早いけど来年からもよろしくお願いします」
 そうして、ぺこりと軽く頭を下げる荒覇斗を見て、ポムは一瞬目を丸くしてから、安堵したように心から微笑んだ。
「荒覇斗に楽しんでもらえたら良いのじゃ。……私こそ、来年もよろしくなのじゃ♪」
 不安だったけれど、今夜は荒覇斗を遊園地に誘ってよかったと思いながら、ポムもちょっと早い来年のあいさつを返した。
 少し重かった空気が晴れ、改めてポムと荒覇斗は観覧車が地上へと戻るまでの残りの時間を、景色を楽しむ事に費やしたのだった。



イラストレーター名:175