●『プレゼントは……』
ふたりでのんびり過ごそうと思っていた、クリスマス。 「双翼さんにプレゼントがあるんです」 双翼の部屋に入るなり、佳奈芽はそう言いながら着てきたコートを脱ぎ始めた。 そのコートの下から出てきたのは、明らかにサイズの合わない大き過ぎる手編みのセーターである。 「待っていてください。今、渡しますから」 ああ、それ俺用なのか……と思った双翼の目の前で、佳奈芽はおもむろにそのセーターの端に手をかけて脱ごうとした。 「……って、おい!?」 その行為に双翼は慌ててそんな声を発する。 セーターの下にちゃんと服を着ているだろうという事は当然、分かっているというか想像できる。 分かってはいるのだが……こう……何と言うか……男として、色々と恥ずかしいシチュエーションなのだ。これは。 (「いや……まさか知っていて反応を楽しんでいるとか?」) そんな訳はないと即座に否定はしたものの、そんな考えが一瞬浮かんでしまうほど動揺しきった双翼の心の内にも、そして慌てて発した声にも佳奈芽は反応をかえさない。 気付かないのか気にしていないのか……佳奈芽はセーターを脱ぎ終えると、それを丁寧に畳み始めた。 「はい、メリークリスマス☆」 畳み終えたセーターをそう言って差し出す佳奈芽に何とか礼を言って、双翼はそのプレゼントを受け取った。 佳奈芽は、ちゃんと下に自分用のセーターを着ていた。 当り前なのだが、少し落ち着きを取り戻せた双翼は……あらためて、贈られたセーターに目を向ける。 双翼のセーターには翼を象ったイラストが入っていた。 佳奈芽のセーターにも翼を象ったイラストが入っていて……ふたつで一対の翼になるようにデザインされているように見える。 「これからも一緒にいられたら……と思って」 真っ赤になって俯きながら……それでも双翼にはっきり聞こえるように、佳奈芽が……言う。 その言葉に、想いに、何とか応えようと思いはしたものの……うまく言葉が浮かんでこない。形に……出来ない。 「……ああ、これからも宜しく、な」 何とか……形にならない全てを籠めると、双翼は……それだけ言って、セーターへと袖を通した。 セーターには彼女の温もりが残っている。 「温かいですか? 双翼さん」 佳奈芽の言葉に返事をしようとするものの……先程と同じように……上手く言葉にならない。 不器用な、素直でない自分の性格を痛感しながら……それでも心をこめて、双翼は……言葉を贈った。 目の前の大切な人へと精一杯の想いを……籠めて。 「……ああ、おかげさまで、な」 その一言で、部屋に……笑顔という名の花が、咲いた。
ふたりの夜は、続いていく。 そして……ふたりの、月日も。
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