此花・このは & オスワリ・ゴンスケ

●『クリスマス?なんだそれ強いのか!?』

 その日このはは、オスワリから食事に誘われた。
 仲の良い遊び友達からの、食事の誘い……今日が普通の日であれば、このはも慌てはしなかった。
(「え……!? そんな、まさか!?」)
 しかしどうしたことだろう、このはのこの慌てよう。一瞬体が固まり、返事を迷う。
 ――そう、今日はクリスマス。そして今日という日に、食事のお誘い。
 オスワリの事は今まで異性として意識していなかったけれど、気兼ね無い関係が心地よかったけれど、それはオスワリも同じことだと思っていたけれど。
 よりによってクリスマスに、誘われるなんて、もしかすると……。
 軽くパニック状態におちいりつつも、コクコクうなずいてOKサインを出すこのは。あまりの不意打ち具合にどぎまぎし、オスワリに案内されるまま後をついていく。
 ……こんな調子だから、このはは気付くはずが無かった。
 オスワリが余りにも何時も通りだという事に……。

 どれくらい歩いただろうか、ふとオスワリが足を止める。
 考え事をしていたこのははうっかり背中にぶつかりつつも、目の前の建物をそっと見上げた。
 ――そこには、小さなラーメン屋さん。
(「……!?」)
 ちょっと予想外。
 呆気にとられるこのはとは違い、慣れた調子でドアを開けるオスワリ。
「この店は美味くて有名だから、何時もは行列が出来ていてね。だが、今日の様な日なら空いている。御蔭で並ばずに賞味出切ると言う訳だ!」
「へぇ……そうなんや」
 少し狭い店内では、昼時に混む様子が容易に想像できた。
 いつもは並んでいるのだろうか、珍しく空いた店内で早速ラーメンを注文するオスワリは、凄い良い笑顔を見せている。
(「うわー、超何時も通り……!」)
 隣の席で彼の顔をぼんやり眺めつつ、ここに来てようやくこのはは気付く。

 オスワリは微塵の他意も何もなく『仲の良いダチを美味いメシに誘ってきただけ』なのだ――!

(「確かにクリスマスで空いてるかもしれへんけど……こ、この男は……!」)
 それに気付いてしまって、軽い怒りと呆れで肩を落とすこのは。同時に、自分への自嘲と呆れも湧き上がる。
(「つーかむしろ何勘違いしてるねん」)
 ふっと溜息をつき、このはは割り箸を割った。
 ――けれど、今の関係が相変わらず磐石だという事に、少し安堵してしまい。
 複雑な感情を心に渦巻かせつつオスワリの表情を伺うと、彼は実に美味しそうにラーメンを食べているではないか。
(「……良く考えれば、こう言う所が心地良いんだっけ」)
 その表情を見ていたら、このはの心のモヤモヤがフッと晴れる。
 自分の単純さに思わず苦笑して、このはは目の前の美味しそうなラーメンにようやく箸を伸ばした。
「いただきます!」

 恋愛だけが、青春じゃない。
 こんなクリスマスがあってもいいよね! と、内心思うこのはであった。



イラストレーター名:ばっじん