●『サンタは二人やってくる 〜陰謀編〜』
今宵はクリスマスイヴ。 子供たちにサンタがプレゼントを渡して巡る、そんなイベント。 そのイベントに信が参加したのは、子供たちの笑顔が見たいからと、もうひとつ。 「……寒いんだが……」 信の前には、赤いサンタクロースをイメージしたミニのワンピースをまとう、狩耶。 顔を真っ赤にして、落ち着かない様子でスカートを引っ張っている。 「信さん、どうしてもそっちじゃダメなのか……?」 「当然だ!」 狩耶は信のまとう男物の衣装を指差すが、断固却下だ。当たり前だ。狩耶のミニスカート姿が見たくて、彼女をこのイベントに誘ったのだから。 常々、不満だったのだ。狩耶は自分のことを男だと思い込んでいた時期があったから、口調も立ち振る舞いも男っぽい。信と付き合うようになってだいぶ女性らしくなってきたようには思うが、いつまで経ってもいつまで経っても、女性らしい格好をしてくれないのだ。 こうなればどうしても狩耶のミニスカ姿が見たい。 出来れば折角だからパンチラも見たい。 ……という、実に欲望に正直な思案の最中にこのイベントの知らせが舞い込んだのだ。女の子のサンタ制服はミニスカート。これを利用しない手はない。 実際にミニスカートを着た狩耶は、思った以上にしおらしくて可愛らしい。いつもこんな格好をしてくれればいいのにと信は真剣に思う。 さて、第一の目的は達成した。あとは第二の目的だ。 あれだけ短いスカートならば、配り歩く内にパンチラのひとつやふたつ見られるだろうが、念には念を入れておくに限る。 「さぁ狩耶! 俺達はこっちの道を行こうぜ」 意気揚々と重い荷物を担いで彼女を先導すると、 「なにか怪しいんだが……」 と狩耶はやや目を細めつつも、素直についてきた。 この先の道には、古典的ながらバナナの皮を置いてある。信も普通ならば成功率は高くないだろうと思うが、相手は『うっかり』の多さでは類を見ない『うっかるやん』だ。期待を裏切らないでくれるに違いない。 「さぁ走るぞ狩耶! 子供たちが待ってるからな!」 信が道の先を指差すと、彼女は諦めたのか、潔く暗い夜道に駆け出し──。 「うわぁッ?!」 すてーん。 見事に、転んだ。 ふらつくとかそんな程度では済まない、派手な転び方で。 (「さすがだうっかるやん!」) ばっちりふたつ目の目的も果たした信は思わず拳を握ってから、慌てて狩耶の元へ駆け寄った。 「大丈夫か、狩耶?」 「痛いんだが……」 僅かに涙目を浮かべながら、狩耶がお尻をさする。あれだけ派手にこければそれもそうだろうと思う。 「立てるか?」 「うん……」 「じゃあ、行こうか! もう俺へのプレゼントはいただいたが!」 彼女に手を貸しながら、信はうきうきと言う。 狩耶は首を傾げながらも荷物を背負って歩き出し、それから少しして呟いた。 「……この格好のことか……?」 信は黙って子供たちの家を目指した。
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