●『先を夢見ながら』
街を行き交う人々の顔は笑顔で溢れていた。 お祭り騒ぎ、とまでは行かないが街の装いは華やかで、目に飛び込んでくるショウウィンドウは鮮やかな色合いに飾られている。金と銀のベルが街灯下に揺れる表参道を、蒼姫と凶司はゆっくりと歩いていた。 なだらかに続く傾斜の道は聖なる日――クリスマスを楽しむ人々で溢れている。互いに寄り添う恋人達を見ながら、凶司はこほんと咳をすると、隣りを歩く蒼姫との間を少しだけ近づけた。 「……離れていたらはぐれてしまいそうだからな」 言いながら凶司は蒼姫から少し顔をそらし、先を見つめる。 「ふふ、そうですわね。はぐれるわけには参りませんからね」 その仕草が妙に愛おしくて蒼姫は笑うと、もう一歩だけ最愛の人のそばに近づいた。普段以上に寄り添い、そばにいることには照れもあったが、嬉しさの方が勝った。 街の様子を話題にしながら石畳を歩き、賑やかな街並みを進んでゆく。今日の目的は互いに贈るクリスマスプレゼントを探すことだ。何がいいだろうかと考えながら、二人は次々と店を回った。 穏やかな雰囲気のファンシーショップでは、愛らしいクマのぬいぐるみに微笑んだり、少し奥まった場所にあるアンティークショップでは飴色の家具に目を奪われたりした。ふと立ち寄ったジュエリーショップでは、二人して華やかな飾りつけを珍しげに見つめていると、店員から婚約指輪ですか、などと声をかけられることもあった。 聖なる日に共に過ごす――普段よりも寄り添う時間は、二人の大切な想い出の時間として穏やかに、そして色鮮やかに進んでゆく。そうして互いの距離が自然と心地よくなってきた頃、蒼姫と凶司は一軒の店の前で足を止めた。 そこはある一色のドレスでディスプレイされた服飾店だった。 鮮やかな刺繍が施されたヴェールに、幾重にも重ねられたパニエドレス――全てを聖夜の雪色にしたドレスに凶司は目を止めると、ぽつりと言葉を漏らした。 「綺麗なウエディングドレスだな」 その後に蒼姫もまた、そうですわね、と相槌を入れる。 「シンプルですけど……とても綺麗ですね」 純白と言う一色の美しさに蒼姫の瞳が眩しそうに揺れる。 いつの日か、自分も――。 左の薬指に輝く石はきっとそれを叶える道しるべになってくれるだろう。 「蒼姫が着たら……本当に魅力的になるだろうな」 「ふふ、その隣には勿論貴方がいるのでしょ?」 「そうに決まってるだろ?」 互いにかけ合う言葉には、悪戯っぽさと共に本当の想いが溢れる。そんな中で静かに微笑み合えば、二人の想いはもう一つだった。 けれどまだ、プレゼントは見つかっていないから。 二人は先程よりも更に寄り添うと、賑やかに騒ぐクリスマスの街へと再び歩き出した。
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