●『聖夜の芸術』
クリスマスの夜に二人きりのデート。アンディと水緒はとっておきのお洒落をして、一緒に町を歩いていた。 「水緒、この先のイルミネーションが綺麗らしいよ」 いつものゴザル口調ではなく、素の口調でアンディが誘った。藍色の髪に良く似合うドレスをまとった彼女に、いつにもまして目を奪わる。 「どんな感じなのか楽しみですね、アンディさん」 その光景はどんなものだろう。期待しながら、水緒はアンディを見上げて答えた。アンディのいつもとは違った口調も、思わずみとれてしまった格好もまた新鮮だ。 目が合った水緒にアンディは微笑み、しっかりと寄り添って歩く。イルミネーションも楽しみだけど、今夜一緒に居れることが一番の楽しみだ。 夜は暗いものだけれど、今夜は違う。建物からは暖かな色をした灯りがこぼれ、クリスマスらしい飾りや電飾が華やかだ。 どこからともなく賑やかなクリスマスソングが聞こえてくる。それは心が浮き立つような、どこかそわそわと落ち着かないような気分になってくるものだった。物珍しくお店や飾りを目で追ってきょろきょろとしては、何故か恋人と目が合ってそのたびに照れて微笑みあう。きっと相手もそんな気分になっているのだろう。 少しだけ特別に見える町。その『特別』の気分は町の賑やかさではなく、大好きな人と一緒だからかも知れない。
話に聞いたベストスポット。建物の角を曲がれば、木や建物を彩る無数の光の粒が織り成した夢のような光景が広がっていた。 青を深めて暗くなってきた空を背景にしたイルミネーションの煌めきに、水緒はそっと呟く。 「素晴らしいですね……」 「本当だね……」 アンディも頷いた。 言葉はそれ以上必要なかった。恋人達は肩を寄せ合いイルミネーションを見つめる。 きっと忘れないだろう。 今夜の素敵なクリスマスの思い出を、隣にいる君のぬくもりを。 「メリークリスマス」 「メリークリスマス」 そっと紡いだ言葉が重なった。
| |