●『その祈りと願いが叶うように』
その区画に足を踏み入れた途端、小夜はほう……とため息を吐いた。感嘆と共に白い吐息がふわりと生まれ霧散する。 クリスマスの夜。小夜と隼人はあるガーデンパーティに参加していた。それは大きな天使の雪像をたくさんのキャンドルでライトアップする、という企画のパーティーだった。 真っ白の雪景色の中、あちこちに思い思いにたたずむ天使の雪像にキャンドルのやわらかな光が当たり、夜に浮かび上がるその姿はとても神秘的で。 「……きれい……」 声もなくしばらく見入った後、小夜はそう小さく呟いた。 「きれいだな」 隼人も同じくその景色に見入っている。 「まるで、思い出の宝石、みたい……」 「思い出の宝石?」 問い返す隼人の言葉に小夜はこくりと頷く。 「……思い出は、一つずつ、積み重なって行くんです。それは全部全部、大切な宝石なんです。このキャンドルのきらめきは、まるで、一つ一つが誰かの思い出のようで。宝石のような輝きで。とっても、きれい……」 夢見るような小夜の瞳にキャンドルの光がちらちらと揺れている。 「それなら、俺たちの思い出もこの中で光っているのかもな。……小夜ちゃん、今年も一年ありがとう。いろんなところに行ったけど、まだまだ思い出を作り足りないよな」 「私も、隼人先輩と、もっともっと思い出を作りたい、です。……そうだ、隼人先輩、一緒にキャンドルに灯をともして、思い出をまた一つ、作りましょう?」 小夜の提案に隼人は優しく頷いて二人でキャンドルを一つ選び、それに一緒に灯をともした。ぽわり、と生まれた光は、一番新しい二人の思い出の宝石。 「あ、あの、隼人先輩。このキャンドルの灯に、願っても、いいですか。来年も一緒に、過ごしてください。……ずっと、そばに、いてください、って……」 おそるおそる小夜の手が隼人の服の袖をつかむ。それは内気な小夜にはとっても勇気のいること。 「だめだな」 「だ、だめですか……」 一蹴され、しゅーんとした小夜の手が隼人の腕から離れる。隼人はすかさずその手をきゅっと握って、いたずらっぽく笑った。 「来年だけなんて、そんな寂しいことを言うなよ。来年も再来年も、五年後だって十年後だって、ずっと一緒に過ごそうぜ?」 「……!」 握られた手のぬくもりと、隼人の明るい笑顔と、その優しい言葉に小夜は少し瞳を潤ませて、そしてこくりと頷いた。 「はい、一生懸命、ついていきますから」 「俺の心はいつでも小夜ちゃんと一緒だぜ!」 力強い隼人の言葉に小夜がぎゅっとその手を握り返すと、隼人もまた強い力で小夜の手を握り締める。 小夜はもう片方の手もつないだ手に重ね、そっと瞳を閉じて祈りを捧げた。そして隼人も小夜と同じように手を重ね、天使像に祈った。
……きっときっと願いは叶う。雪像の天使が力を与えてくれる。 その祈りと願いが叶いますように……。
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