●『今夜だけでも……想い、重ねて』
クリスマスの日、赤い夕陽が傾く頃。 銀誓館学園の体育館を舞台に、厳かにクリスマスの舞踏会が開かれた。 聖なる夜を迎えるにあたって……絆を深めるための、パーティ。
そんな催しに、百合子はリヴァルを誘い出した。 彼女が二つ返事でOKしてくれたことが嬉しくて、百合子ははにかむ。言葉に出してこの喜びを伝えられれば、もっといいのだけど。そんな風に思う百合子の耳に、静かに、けれど楽しげにダンスのメロディが響く。 佇む百合子の前に現れたのは、黒のタキシードに身を包んだ凛々しいリヴァルの姿。銀色の髪を揺らし、百合子に服を見せる。ドレス同士で踊るのもいいけれど、今日は百合子をリードしてあげたい……そんな想いも、込めての衣装だ。男装も大丈夫なようだし。 「似合うかな? ……なんて、ね」 レース飾りの散りばめられたドレスをまとった百合子は、リヴァルの問いに気恥ずかしそうに微笑みを返した。彼女の動きに、腰を飾る小花のコサージュがキラリと映えて目を引く。 「では、お手を拝借」 差し出される手に、手が重ねられる。 少し背の高い百合子の瞳を見上げたリヴァルは口元に笑みを浮かべ、視線でリズムを刻んで見せてから、ゆっくりと最初のステップを踏み出した。 ダンスの経験は無い訳ではないし、彼女と踊るのも初めてではない。多少の身長差はカバーして、リードしなくては。年上としてはそう思うもの。
楽隊の奏でるメロディに誘われるままに、リヴァルの長い銀色の髪が、百合子のドレスの裾や灰色の髪が、リズムに合わせて軽やかに踊る。 見詰め合う瞳、回る景色。 夢のような時間は、瞬く間に過ぎていく。
最後の曲が終わった時、百合子はありったけの想いを言葉にした。 「ありがとう、ございます。嬉しかった、です」 誘いを受け入れてくれたこと、手を拒否せずに……握り返してくれたこと、百合子の胸の中で、全てが幸せな想い出に変わっていく。 頬を紅潮させ、真っ直ぐに言う百合子に、リヴァルは優しく微笑んだ。 「ふふっ、せっかくのお誘いを断るのは、失礼でしょう?」 来年もこうして、同じように踊れるかは誰にもわからない。これが例え今年だけ、今夜だけだったとしても……百合子が喜んでくれるのなら、悪くない。
誰にも、未来を見ることはできない。 けれど、今この瞬間は……確かに重なる、二つの想い。 今はこのまま……二人共にあれることに、ただ感謝するのだった。
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