●『ボク様とお姉ちゃんの優雅なクリスマス』
今日は、年に一度のクリスマス。 ツリーには様々な電飾が付けられ、至る所でジングルベルが奏でられる。普段とは打って変わって煌びやかに彩られるその日を、人々は心を躍らせて過ごしてゆく。 ある者は家族とケーキを囲み、ある者は愛しい人と夜景を楽しむ。そんな中でも、ちょっと変わったクリスマスを過ごす姉弟がいた。
「お姉ちゃんはボクさまにわらってくれました。『(可愛らしい声で)なづきちゃん!』。このきたならしい下かいにまいおりた天しといえるお姉ちゃんは、ボクのおひめさまなのです」 カタカタとキーボードを打ちながら、脳はそんな怪しげな台詞を垂れ流していた。 その台詞を横で聞いていた心は、勢いよく立ち上がると脳の方に身を乗り出して叫んだ。 「さすがなづきちゃん! 良い文章です!」 感動に満ちた笑顔を浮かべて、脳の作った文章を褒めた。褒められた脳も、嬉しそうに笑みを返す。どうやら、良いシーンが出来たようだ。 「わたしもノッテきました! コレなら良いイラストが描けますよ!」 心はGペンを握ると、しゅぱー! っという擬音が出てきそうな勢いでペンを走らせていった。 2人がそれぞれ作っているのは、オリジナリティ溢れる同人誌。冬のアレ目指して鋭意製作中とのことで、2人は資料豊富な図書館までやってきていた。 しかし、クリスマスとはいえ他の客も居り、脳の朗読と心の元気な声とで、2人は注目の的だった。本人たちは気にならないのか、騒ぎながらもドンドン作業を進めていた。 そして、とうとう2人の手が止まる。 「出来たー♪」 「ボクさまの方も完成だ」 心は書き上げた原稿を整え、脳は文書データを記憶媒体にコピーする。あとはこれを……。 「なづきちゃん!」 「お姉ちゃん」 同時に声を掛け合う2人。お互い驚いた表情を浮かべた後、脳が先を促した。 「お姉ちゃんからお先にどうぞ。何か用事かい?」 「あ、うん……はいっ、これ」 「え?」 脳は、受け取った原稿を見て疑問符を浮かべた。 「わたしからのプレゼントです!」 「だけど……この原稿は冬のアレのために書いたのでは?」 その質問に、心は首を振って答える。 「ううん、本当はプレゼントしたくて描いたのです。しばらく離れて暮らしてたから……何か、特別な物を贈りたかったのですよ」 そう言い、にっこりと微笑を浮かべる。脳には、その笑顔がとてもまぶしく映った。 「そうだったのか……ありがとう、お姉ちゃん。それと、これを受け取って欲しい」 脳が差し出したのは、先ほどの記憶媒体。 「え? でもこれは……」 「ボク様も、お姉ちゃんにプレゼントしたくて書いていたのだが……気持ちは同じだったみたいだね」 「なづきちゃん……ありがとうです!」 満面の笑みを浮かべる心。脳も、それにつられる様に笑顔を浮かべて、2人で笑いあった。 今日は、年に一度のクリスマス。仲むつまじい姉弟に幸多からん事を。
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