杉本・沙紀 & 無月・光明

●『2人だけのパーティ』

「いらっしゃい……、ここがわたしの部屋よ」
 朝から賑やかに行われた学園のクリスマスパーティが終わった後、自室の扉を開け放ち、先に入って光明を招く沙紀の声は、初めて部屋に招いたせいかほんの少し緊張の色が混じる。
 掃除は勿論、飾り付けも朝に済ませておいた、ケーキもジュースも準備済みで、大丈夫と思いながらも相手の目にどう映るかはやはり気になってしまうもの。お邪魔します、と声を掛けながら入ってくる光明の様子が気になって、自分の部屋なのに落ち着かない。
「わぁ、ここが沙紀さんの部屋……」
 思ってた通り、綺麗で何か落ち着く部屋だね、と笑い掛けてくる様子に、ほっと息を吐きながら沙紀が微笑む視線の先、上着を脱いだ光明が着ていたのは自分が今着ているのと同じセーター。思わず驚いた顔をした沙紀に、おそろいの、とセーターを示す光明。どちらともなく二人は顔を見合わせて笑いあった。

「メリークリスマス!」
 チン、と合わせられるジュースの入ったグラスがパーティの始まりの合図。まずはじめはプレゼント交換。
「はい、沙紀さんどうぞ」
「ありがとう、光明のは随分大きいけれど……中身は一体なにかしら?」
 大きな包みを手渡されて嬉しそうに受け取りながら、包装紙越しに中身を当てようとするように撫でながら沙紀は首を傾げる。沙紀からのプレゼントは、光明の膝の上。二人で同時に包みを開くつもりなのだ。
「沙紀さんからのプレゼント、中身は何かな?……あ、手袋だ」
 せぇの、の掛け声でそろって包みをほどいていけば、先に声があがったのは光明の方。テーブルの上の包装紙から覗くのは手編みの手袋。丁寧に編み込まれたそれは見た目にもとても温かそう。大きめの目を嬉しそうに細めて、帰りにはめて帰るね、と笑顔を浮かべる視線には、大きな包みを広げて歓声をあげる沙紀の姿。大きな包みの正体は、大きな猫のぬいぐるみ。ぎゅっと抱きしめて、大事にするね、と笑顔を向ける彼女の姿に光明も微笑んで見せるのだった。

 乾杯、プレゼント交換となれば残るのはケーキのみ。苺ののったケーキにナイフを当てて、大きめに切り分けると甘い香りがふわりと鼻をくすぐる。
 真っ白な皿に取り分けたケーキにフォークを挿して、一口サイズになったそれを差し出す沙紀に、光明はほんの少し照れたような表情を浮かべるもパクリと素直にケーキをほうばれば、口の中に広がる甘さに幸せそうな笑みを浮かべる。じゃあもう一口、と差し出そうとする沙紀を制して、光明はフォークを手に取るとケーキに挿して今度は沙紀の口元へ。
「光明?」
「今度は僕の番。沙紀さん、あ〜ん」
 甘いケーキには甘い食べ方、二人で交互に食べさせ合えば、ケーキが消えていくのはすぐのこと。甘いケーキが終わったならば、今度は甘く楽しいおしゃべりの時間。今までの事これからの事、話し始めれば尽きることなく……その日は遅くまで、部屋の明かりが消えることはなかったという……。



イラストレーター名:味素 うどん粉