●『そして月は優しく2人を祝福する』
月がうっとりと微笑む冬の夜。空を仰げば無数の星たちが輝き、闇夜を走った。 ――ここはチーム【眠れる泉】が溜まり場として使用している廃ビルだ。 「寒くないかい?」 自分の膝の上に座っているパピーは首を振ったあと、雷の胸元へと顔を寄せる。 パピーの愛らしい行動に思わず口元が緩んだ。 ふと、パピーと恋人に至ったまでの過去が雷の頭を過ぎる。 二年前、雷はある女性に告白して付き合い始めた。 ――が、恋人は故郷へと帰国。わずか半年も経たぬうちに愛しき人と別れることになる。引き止めようにも叶わず、かといって自分の思いは消えなかった。 ――ならば、深い深い心の奥底へ閉じ込めてしまおう。 雷はその日以来、自らの思いを封じた。二度とこの思いが解けぬように、と。 ……それが、心の時間を自ら凍てつかせることになるとは、露も知らずに。
雷に変化が訪れたのは、先月の誕生日。 この頃、パピーは複雑な思いに囚われていた。 二年前からだ。 好きな人である雷が、女性と付き合い始めたのは。 ――それは、パピーが憧れていた人。 ひどく乱心した。 けれど、パピーは黙する。雷が女性と別れることになろうとも、思いは告げなかった。 いや、言えなかったのだ。まだ雷がその女性を好いていると思っていたから――。 しかし、積もり積もった恋の感情を抑えることは、もう――できない。 ついにパピーは、雷の誕生日に打って出た。 情熱的な愛の告白。燃え上がるようなパピーの思いが、氷った雷の心を動かした。 ――結果、晴れて二人は恋人同士になったのだ。
「折角のクリスマスってぇのに本当にこンな場所でイイのかい?」 触れ合う温もりがあたたかい。 「らいがいればいーの」 パピーにとっては二年もの間思い続けた相手。 クリスマスは関係なかった。傍にいられることが嬉しいのだ。 ずっと月を眺めていたパピーだが、体を捻り雷と向き合う。 「あのね……あのね……」 内緒のお願い事をするように。 甘い甘いおねだりを――そっとささやく。 「きす……して?」 優しい微笑みと共に、雷はパピーの唇を奪う。 「……メリークリスマス……」 呟いた言葉は、パピーの耳元へと溶けた。
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