●『Merry Xmas 2009』
「……メリークリスマス、優季」 「めりーくりすます!! いん、2009!! 泉♪」 それは勇気が泉だけに教えた呼び方である。 その呼び方に勇気はいつもよりいっそう笑顔を明るくして、ジュースを注いだグラスに元気のよい音を響かせた。 ちょっと零れたジュースを拭く時すら嬉しそうに見える。 「焼き菓子屋で話してるのも楽しいけど、こういうのも良いよねー」 本当に楽しそうな笑顔を見せる勇気に、泉は何か気恥ずかしさのようなものも感じつつ……小さく肯定を返した。 クリスマスの夜、一緒に過ごそうと勇気が計画したのは十二月の初頭くらい。 最初は結社の皆で賑やかに過ごそうという予定が、戦争や各自の懐具合等で相談が伸びたり変わったりして……気が付けばクリスマスの夜、一緒に時を過ごしている二人がいるという訳である。 計画に当たって勇気は色々……迷惑じゃないかとか気乗りしないのかなとか、考えたり迷ったりした。 したものの、恥ずかしそうにしつつも楽しそうにしている泉を見ると……良かったという安堵、そして嬉しさがこみあげてくる。 楽しそうなのが、嬉しそうにしてくれるのが、嬉しい。 だから自然と一層、元気に、明るくなれる。
一緒に食事を進めながら、話しながら……泉はいつもより心もち頬に熱を感じながら、優季の言葉に相槌を打ったり言葉短く返事をしていた。 嬉しそうな優季の笑顔に……気恥ずかしい様な、心が軽くなるような、不思議な気持ちを感じつつ……なぜ、と何かが首をかしげる。 何故、優季はこんなに嬉しそうなのだろう? 楽しそうにしてくれるのだろう? もちろん、いつも元気で明るいけど……何で、わたしなんかを……? ふと……吸血鬼艦隊との戦争の前に話していた時、自分が無茶をしないかと心配していた優季の姿が……浮かんだ。 今まで幾人かに自分を卑下しすぎだと注意されり、無茶を心配された事はあったけれど、それが自分の性格なのだろう……泉はそう思ってきた。 けれど……優季のその表情に、何か……締めつけられるような気持ちがこみあげてきて。 「あーっ!?」 悲鳴と共にグラスがひっくり返り、盛大に中の液体がテーブルに散布された。 「あたしってば……こんなのばっかり……」 零したジュースを拭きながらガックリとする彼女の表情に……浮かんだ優季の顔が、だぶる。 「優季は……優季らしく、それで良いと思う」 考えて、ではなかった。気が付けば……優季の手を泉はぎゅっと握っていた。 あわてて手を離そうとした時、握っていた手に力がこもる。
勇気が驚いた表情をしていたのは、ほんの一瞬だけだった。 すぐにいつも通り……いつも以上に、嬉しそうで……幸せそうな笑顔が浮かぶ。 泉は恥ずかしげに少し顔をそむけて……手を更に強く握りしめた。 言葉は……いらない。 ふたりは唯、手に力を込めた……互いの気持ちを感じるように。 互いに気持ちを、伝えるように。
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