●『Merry Christmas 〜光り輝く木の下で〜』
視界一杯に並ぶ街路樹には、無数の電飾。 商店街のショーウィンドは、どのお店も同じようにサンタクロースとトナカイ。 今日は、クリスマスイヴだった。 そんな街の中を、一組の女性が歩いて居く。 「都和子姉様、こっちです!」 待ちきれないと言わんばかりの様子を見せる少女。 「彩、慌てないの」 それに対して、都和子と呼ばれた女性は一切慌てる様子を見せない。 そのかわりと言うわけでもないが、先に行こうとする彩の腕を取ると、自分の腕へと絡める。 「……えへへ」 突然の事に驚きつつも、はにかんだ笑みを見せる彩。 ピンクのハーフコートにチェックのスカートと黒のニーソックスで全体的に『かわいさ』を押し出した彩。 それに対して、黒のトレンチコートにパープルのセーター、白のロングスカートにブーツで『クール』という雰囲気をまとった都和子。 正反対ともいえる二人だが、その中でお揃いの部分が一つあった。 首元に巻いたスカーフである。 彩が白をベースにして青で百合を描いた物で、都和子が黒をベースに赤か百合を描いた物であった。 これは、クリスマスプレゼントとしてお互いが贈った物。 これからも一緒にと言う願いの現れであった。 それから歩く事暫くして、二人の前に何本ものクリスマスツリーが現れた。 「よかったぁ、間に合いました」 「ふむ?」 電飾の輝いていないクリスマスツリーを前に安堵の溜息をつく彩と、それを訝しげな目で見る都和子。 今回のルートは彩に一任していた為、何に間に合ったのかが一切分からなかった。 「正解は、見てのお楽しみです」 そう言うと、彩は時計を確認してだまって頭上を見上げる。 それを見て、問うのも無粋と思ったのか、黙って同じように見上げる都和子。 それから暫くして、六時の鐘が鳴ると同時に、ツリーのライトが一斉に点灯された。 「うわぁ、綺麗ですね」 「ほぉ……」 評判どおりというか、それ以上の情景に見とれる二人。 「……雪か」 そこに、まるで示し合わせたかの様に雪がまい始める。 深々と舞い降りる雪の中、何本ものクリスマスツリーがキラキラと輝く。 それは、まるでこの世の物とは思えないほどの情景。 ふと彩に視線をやると、都和子はある事に気がついた。 「ほら、スカーフが曲がっていてよ」 そう言って、彩のスカーフを直すと、そのまま背後から抱きしめる。 「え、姉様?」 突然の事に驚く彩を残し、また上を見上げる都和子。 その様子に、落ち着きを取り戻した彩も再び頭上を見上げる。 「彩、メりークリスマス」 普段見せない暖かな微笑を浮かべて、都和子が呟く。 「メりークリスマス、都和子姉様」 それに返した彩もまた、暖かな笑顔を浮かべていたのであった。
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