●『初めての真っ白な世界』
クリスマスに華やいだ街を、二人の少女が歩いている。 イルミネーションに目を輝かせはしゃいでいるのは、サンタクロースのコスチュームに身を包んだアルメニカ。 その後ろから、傍目には分からない程度の仏頂面をして続く紫桜はいつも通りの着物姿だ。 「シオ! あれ……とても綺麗、です……」 最初は歩速を合わせようとしてアルメニカだが、すっかり浮かれ切ってしまっている。 初めて見るキレイな物に心躍らせて、いつのまにか紫桜の数歩前で先へ先へと誘っている。 「アルメニカ、もう――」 炎色の髪を持つ少女は、そんな金色娘のはしゃぎっぷりに少しばかり食傷気味だ。 もともと、今日は一人で過ごすつもりだった。 あまりにせがまれるので、渋々街へ出てきたのだ。 「何が……こんなに」 楽しいのだろうか、と。 少し先ではしゃぐアルメニカを眺め、唇の内側でぽつり呟く。 それでも。そんな風に全身で喜びを表している少女の姿が、嬉しさいっぱいの声が、冷たいはずの自分の心に刺さり小さく波を起こす。 「ほらほら、シオ、あれ――」 「待ってくださいな、あ……そんなに急いだら転んでしまいます」 繋いでいた手を少し引き寄せるように、横に並ぼうと前に出る紫桜。 「大丈夫、転んだりなんて……ふぁ……!?」 足元の注意がおろそかになっていたのだろうか。 言ったそばからつまづき転びそうになったが、ちょうど手を引っ張ろうとしていた紫桜がそのまま力を加えて引き寄せる。 「シオ、ありがとう……です」 「気をつけてくださいね?」 手を引いてくれたお礼だけではない、色々な意味の詰まった『ありがとう』に、紫桜は少し照れたように言葉を返す。 (「ま……こういう日もありでしょう」) 今日はとことん付き合うのもいいだろう。 満面の笑顔を向けてくる少女につられ、自分の顔もほころんでくるのを感じながら思い直す。 真冬の寒さに負けないほどにあたたかいのは、繋いだ手から相手の温もりが伝わってくるからだろうか。 それとも触れ合った心が温めてくれるのだろうか。 そんならしく事を考えたりしながら、紫桜はアルメニカと一緒にクリスマスの夜を楽しむのだった。
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