●『惚気話は聞き飽きた。』
文雪は悩んでいた。それはそれは真剣な顔で。メンズ雑誌のプレゼント特集ページを食い入るように見つめ、ああでもないこうでもないとぶつぶつひとり言を繰り返している。 「もう少し静かに悩めない?」 「茶々を入れないでください!」 横に座り、興味なさげにその様子を見ていた蘇芳だったが、からかう口実が出来たとばかりに文雪へ声をかける。茶々を入れるなと怒鳴りつけたものの、恋人に贈るプレゼントが本当に決まらなくてお手上げ状態だった文雪は、仕方ないといった面持ちで蘇芳に雑誌を開いて見せた。 「……どれが似合うと思いますか?」 「誰に?」 「凪に決まってるでしょう!」 文雪が誰にプレゼントを贈るかなんて、知っているのにわざと聞く、蘇芳はこの状況を楽しむつもりでいた。しかし。 「凪はセンスが良いから、中途半端なものじゃ駄目ですよね」 「凪は何でも似合ってしまうから、奇抜なものよりむしろスタンダードなものがいいでしょうか?」 「ああ、この帽子も素敵ですね。でもこのモデルさんより凪の方がきっと似合います」 凪は、凪は、凪は。分かってはいたが、相談というより独演会状態でのろけ続ける文雪に蘇芳はげんなりである。適当に相槌を打ちながらのろけ話を聞き流していたが、ふと何かを思いつき、いそいそと席を立った。
「蘇芳?」 「うん、良い事思いついた。プレゼントは私……なんて、どう?」 ソファの後ろから蘇芳が文雪に『何か』を装着させる。 「な、な……!? ひ、人が真剣に相談してるというのに……!」 「だって決まらないみたいだったし」 文雪の頭におさまっていたのは、蘇芳の妹のものだという赤いカチューシャだった。大きなリボンが目を引く、とても可愛らしいデザインだ。妙に似合っているのがおかしくて、文雪の予想通りの反応が楽しくて、蘇芳はにやにや笑いを隠せない。 「そんな事、出来るわけないじゃないですか!!」 「いいじゃない、世界に一つのプレゼント! だよ?」 蘇芳は顔を真っ赤にしながら抗議する文雪を見てしばらく楽しんでいたが、一生懸命悩む文雪に屈託無く笑ってこう告げた。 「東江さんなら、君が選んだものなら何でも喜ぶんじゃないの?」 「……!」 その一言に文雪は目を丸くする。確かに、プレゼントそのものよりも、それを選んだ気持ちの方が嬉しいものだ。そんな簡単なことも忘れて悩んでいたのかと思うと肩の力が抜けたが、蘇芳にそれを気づかされたのかと思うとちょっぴり悔しい文雪だった。 「……貴重なご意見、感謝してやるのですよ」 「どういたしまして」 クリスマスの本番は、これからだ。
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