●『そして、四度目のクリスマス…変わらぬ二人に祝福を』
ずいぶんと手馴れた様子で荒れ果てた教会のドアを開ける。 「今回で4度目か」 「4回も一緒に来る事になるとは思わなかったけどね」 龍の言葉に、やや皮肉を込めた台詞で返す月亮。 「嫌だったら帰るか?」 そんな台詞とは裏腹に、龍は手早く懐から蝋燭を取り出すとライターで火をつけて床へと置く。 「あら、分かってる事を言う必要があって?」 その美貌に軽い笑みを浮かべつつ、何もせずに床へと座る月亮。 それを見た龍も同じように床に座ると、先程とは別のポケットから2つのスキットルを取り出した。 「ま、酒じゃないのは簡便な」 「それくらいは許してあげるわ」
それから暫くの間、二人は他愛のないやり取りを繰り返していたが、ふと思い出したように龍が首もとのチョーカーに手をかけた。 「そう言えば……誕生日プレゼントに貰ったチョーカーの鍵なんだが」 「……」 「まったく……普通数百個もつけた鍵束を渡すか?」 「あら、難しかったかしら?」 苦笑をしつつ、その真意を聞こうとする龍を軽くあしらう月亮。 「まったく……」 そんな月亮に嘆息一つ返すと、それまで握っていた拳を月亮へと差し出す。 「ほら、あの鍵の中かから当たりらしきもの見つけたんだが…外してくれないか?」 ちょっと得意げに笑う龍に対して、月亮はあくまでも無表情。 しかし、それは笑顔を浮かべまいと必死だった故の無表情であった。 友人から集めて作った鍵束の中に1個だけ潜ませた、自分の鍵を見つけ出した事が堪らなくうれしかったのだが、それを龍に悟られるわけには行かない。 「はいはい、解ったわ。外してあげるからこっちに来なさい」 精一杯の虚勢を張りつつ、恐る恐る鍵を差し込むとゆっくりと捻る。 そしてその鍵は……『カチリ』と小さな音を立てて、その役目を終えた。 「なんだから、物寂しい気分だな」 「あら、ならまたつけてあげましょうか?」 「いんや、勘弁だよ」 ニヤリと笑う龍だったが、ふと思いついた事を尋ねる。 「それにしても、鍵の束じゃなくてもうちょっと違うプレゼントはなかったのか?」 「あら、不満だった?」 「い、いや、そんな事は無いんだが……」 ジト目で見つめる月亮に、思わず冷や汗を流す龍。 「ふふ、冗談よ。良い子にしてれば、サンタさんがくれるんじゃなくって?」 と、それまでの雰囲気を一変させて、軽く笑いながら月亮が囁く。 「ふむ……じゃあ、良い子の月にプレゼントあげよう」 それを聞いた龍は、鍵を開けるために身を乗り出していた月亮にキスをする。 挨拶がわりのフレンチから、恋人同士の情を込めたキスへ。 キスを終えると、はじめに口を開いたのは月亮だった。 「これじゃ、誰のご褒美か分からないわね」 そういいつつ、龍の脇腹へと肘鉄を入れる。 「いてて! まったく……」 それをおとなしく喰らって、龍が笑う。 二人だけのクリスマスパーティーは、それからもう少しだけ続くのであった。
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