●『クリスマス・ハプニング』
チラチラと小雪の舞うクリスマスに、待ち合わせ場所へと急ぐサンタクロースが一人。 「急がなくちゃ……もうこんな時間!」 約束の時間はとっくに過ぎてしまっている。待っててくれるといいんだけど……と、理尋はさらに走る速度を上げた。 一番大切な人との、一番大切な約束に遅刻だなんて最悪だ、と自分を叱りつける。
「遅いなぁ」 一方その頃、ぼんやりと光る街灯の下で手を擦り合わせながら、影斗は小さくひとりごちた。最近はなかなか会うこともままならず、やはり忙しいのだろうかと心配は募る。彼女を待つことは少しも苦ではないのだけれど。 そんな風に考えながらふと、道の先へと視線を向けると、そこにはちょうど必死に駆けてくる理尋の姿があった。 「理尋さーん! 此処で……す、ん?」 「すいません、遅くなりまし……」 理尋の格好に思わず目を丸くする。だがその理由を尋ねるより、勢い込んだ理尋がつまずいて、影斗の胸に飛び込んでくるのが先だった。理尋の身体をしっかりと受け止めてから、彼女の顔と格好をしげしげと眺める。 真っ白なポンポンがついた帽子に、白いふわふわな縁取りの真っ赤な服は、どこからどう見てもサンタクロース。だが、ミニスカートにヘソ出し、大きく開いた胸元とくれば話は別だ。スタイルのいい理尋が着ると、なかなかに扇情的である。 「えっと……なんでそんな格好を?」 「ごっ、ごめんなさい!!」 影斗の問いに、理尋はぺこりっと大げさに頭を下げた。 「専門学校の皆でパーティしてたんですけど……罰ゲームで着替えた後に、時間がないことに……気付いて」 息を切らし頬を赤く染めながら、ひとつひとつ、丁寧に説明する。この格好のまま急いで走ってきたんですけど……と申し訳なさそうに言う理尋に影斗は優しく微笑んだ。 「ゆっくり来てくれても大丈夫だったんですけどねぇ」 自分の着ていたコートを理尋の肩にふわりと掛けて、細い体を大切そうに抱き締める。 「私が理尋さんを待たずに帰るなんて、有り得ないでしょう?」 抱き締められてさらに紅潮した頬を隠すように影斗の胸に顔をうずめ、理尋はこくりと頷いて彼の身体を抱き締め返した。 「……そうですよね」 触れ合う肌から伝わるぬくもりを感じて、やっとホッと一息をつく。 「さて、そろそろ私の家に行きましょうか」 その格好のまま外に居て風邪を引いてしまったら大変ですからね、と笑う影斗に理尋も頷く。 「はい、行きましょうか」 影斗の差し出した手をしっかりと握り返す。 幸せな二人の背中が夜の闇に消え、辺りは静けさを取り戻したのだった。
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