●『約束』
ライトアップされたツリーの無数の光に包まれ手を取り合い、ダンスを踊る二人。 紗津希は髪を夜会巻きにまとめ、山吹色のイブニングドレスに身を包んでいた。 いつもとは違う装いの彼女は、良家の子女であることを思い出させる。 今日だけは、普段のように元気に走り回ったりもしない。大切な人に大事なことを告げるために選んだ、特別な日だから──。 固い決意を胸に秘め、紗津希は翔弥に身を任せくるくると踊る。 正装してダンスのリードをする翔弥は、普段とは違う雰囲気の紗津希に目を細めた。 「ねぇ」 ふいに顔を見上げ、翔弥の腕の中で紗津希が囁く。 「翔弥くんが十八歳の誕生日を迎えたら、紗津希をお嫁にもらってくれるって言ってたの、覚えてる?」 「ええ」 翔弥は静かに頷いた。 「紗津希ね……お母様を早くに亡くして、束縛ばかりのお父様とはずっと冷え切った関係でね、家族の温かみを知らなかったの。だから、早く自分の家庭を持ちたいの」 目を逸らさず、翔弥は真剣に話を受け止める。 紗津希のドレスが緩やかに波を打って舞う。 「紗津希が、両親のいない翔弥くんの家族になってあげる。そしたら、もう寂しくないよね?」 急に何かを決意した表情になり、紗津希は強い口調で続けた。 「今度のお正月にね、銀誓館に来てから初めて実家に帰る事にしたの。そこで言ってやるわ。私は、この人と結婚しますって……これは私の、お父様への独立宣言」 少し驚いた様子の翔弥に、紗津希は足を止め不安そうな表情になる。 そして打って変わって、消え入りそうな声で上目遣いにお願いをした。 「……大変だけど、付き合ってもらっていいかな?」 翔弥は目を閉じてしばらく黙っていたが、やがて心を決めたようにゆっくりと目を開く。 こくりと頷いてから、囁くように紗津希に答えを伝える。
剣一筋の自分を好きになってくれたことへの、感謝の気持ちを。 求婚の承諾を。 そして、必ず幸せにするということを──。
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