●『聖なる夜に』
雪が降るクリスマスに、ツリーの下で待ち、クリスマスカードを貰ったら、そのお返しにキスをするのだという。そんなわけで、真澄は、ツリーの下にやってきた。 「……っと、ツリーの下で待ち合わせってここでいいんだよな」 真澄がそこに着いてすぐに、秀一郎も来る。実は、秀一郎は少し前から物陰に隠れて真澄が来るのを待っていたのだ。なんせ、待っている相手にカードを渡さなければならないのだから。 「お待たせしました。来てくれてうれしいです……」 「そんなに待ってないぞ?」 真澄は、笑う。本当に待っていないのだ。それに、このシチュエーションが妙に恥ずかしくもあり、それを誤魔化したかった。 「あ、あの……これ、受け取ってくれますか?」 秀一郎は、クリスマスカードを差し出した。その様子は、明らかに緊張している。その様子に真澄は苦笑し、カードを受け取った。 「ありがとうございます! お礼は、どこでもいいです!」 秀一郎は、目を瞑って硬直して待機している。そう、カードを受け取った以上、真澄は秀一郎にお礼のキスをしなくてはならないのだ。 (「……頑張れ、俺!」) 真澄は、自分を励まし……そっと、秀一郎の唇にキスをした。 そして、目を開いた秀一郎は…… 「っ!……かわいいなぁ、もう……大好き」 その恥ずかしそうな真澄の顔を見て、思わず抱きしめてしまうのだった。そのまま、『お返し』をしてしまいそうな勢いだったが、 「待った。『お返し』をするなら、俺のカードを受け取ってからにしてもらおうか」 真澄は用意していたカードを秀一郎に押し付ける。そのカードを見て、秀一郎は嬉しそうに笑い、カードを受け取る。 「ありがとうございます。じゃあ……これは、お返し」 秀一郎は、真澄を抱き寄せた状態で……真澄の唇にキスをするのだった。 その後、真澄が照れてるような恥ずかしがってるような表情をしているのに、また秀一郎は真澄を思いっきり抱きしめてしまっていた。 「かわいすぎる! もう一回、『お返し』しちゃ駄目ですか?」 「駄目に決まってるだろ! お返しはカード一枚に一回だ!」 「じゃあ、今からまたカード作ってきたら、お返ししてくれますか?」 「……俺を置いて行ってカード作るくらいなら……貰ったつもりで、お返し、してやるよ」 そうして、真澄からの二度目のお返し。それに対して、秀一郎もお返しするのだった。
雪は、降り続いている。しかし、抱き合っている二人は、寒さを感じないのだろう。それくらいに、二人の間は暖かいのだから。
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