●『クリスマスショッピング』
街のイルミネーションが辺りを照らし、人々は幸せそうな微笑みを浮かべている。誰もが大事な人と過ごす聖夜――そんな日に嵐は一人の少女と一緒に人混みを歩いていた。赤毛の髪を海色のバレッタで結い留め、楽しそうにはしゃぐ少女は、彼の妹――夏夜だ。 「ほら嵐! 早く、早く!」 快晴のように明るい笑顔を見せる夏夜に、嵐は手を引かれて街中を進んでゆく。今年のクリスマスは妹の買い物に付き合うことになったのだ。普段からあれこれ連れ回されてはいるのだが、クリスマスまでそうなるとは嵐自身も思っていなかった。 そんな兄の思いも知らずに、妹は久しぶりにクリスマスを一緒に過ごすということで――いや、それ以前に、このところ一緒に出かけられなかったせいか、そのはしゃぎようはいつも以上だった。そんな妹が楽しそうに笑えば、兄は思わず笑みを零してしまう。 (「今夜は長丁場になりそうだな……」) 何軒回ってもきっと妹は満足しないだろう。それを表すように、夏夜は嵐の手をぐいぐい引っ張って、気になるお店へ連れてゆく。 ふらりと入った店でぬいぐるみを見て、その可愛さに歓声を上げる。かと思うと愛らしい洋服に目を向け、胸に当てては、似あうかと問う。元気いっぱいに目移りしてはまた別のお店へ急ぐ様は、まるで聖夜のサンタクロースのようだ。 「時間はあるんだ、ゆっくり行こうな」 つい急ぎ足になる夏夜に嵐はそう声をかけると、優しく頭を撫でてやる。笑顔を返す彼女は舌を出しながら了解、と返事を返した。 (「買い物ってこんなに楽しかったっけ?」) 夏夜がそう思いながら辺りに目を向ければ、飾りつけられた街が嵐との買い物をより楽しい心地にしてくれる。大切な人と腕を組み、並んで歩けば世界が輝きに満ちている気がした。 「あ、これかわいー」 クリスマスカラーに彩られたショウウィンドウには、ちんまりとくまのぬいぐるみが飾られている。椅子に座って愛らしく見返す姿に目を奪われていると、ガラスの影に白いものが写った。 「ん……?」 「わ、雪だー!」 ふわりと舞う雪は空を埋めつくし、街の中を飛んでいる。夏夜が触れようと手を伸ばせば、冷たい雪の結晶が指先の熱で溶けて消えた。 「今年はホワイトクリスマスだね!」 そう言いながら子供のようにはしゃぐ夏夜を見ながら、嵐は彼女が子供の時分から変わらないことを感じていた。 この元気で明るい姿に安心してしまうのは何故なのだろう。 やがて雪を追い疲れたのか、夏夜は嵐の方を見るとお腹を押さえて声をかけた。 「お腹空いてきたし、そろそろ帰ろー」 「っと、そういえばそんな時間か」 楽しい時間の終わりはお腹の時計が教えてくれる。夏夜は嵐の腕に自分の腕を絡めると、元気いっぱいに微笑んだ。 「今日の夕飯は頑張って沢山作ったんだから!」 言って妹がウィンクすれば、兄は小さく笑みを返した。
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