玖珂守・いつき & 烏兎沼・華呼

●『ガーベラの花言葉』

 口からこぼれる息が白い。それだけ今日が寒いことを物語っている。
 実際、さきほどからちらりちらりと降り始めた粉雪は、モミの木を白く染め上げた。
「だ、大好きですっ、よっ」
 華呼は恥ずかしさから、いつきに背を向ける。
 クリスマスの日、モミの木の下で花の贈り物をもらったら、お返しはキスをしなければならない。
 ――お返しにキスをもらったら、きっと幸せになる。
 華呼の手に握られた白とピンクのガーベラの花束。
 キスするなんて、本当はすごく恥ずかしい。けれど華呼は、いつきの思いに答えた。
 そそくさと帰ろうとする彼女を、いつきは後ろからそっと抱きしめる。
 優しい手、けれど逃がそうとはしない。
「オレも……大好きだよ」
 彼女の冷えた体をあたためるように、甘く、優しく華呼の耳元で静かにささやいた。
 そしていつきの腕に、小さな華呼の手が重なる
 ――とくんとくん。
(「心臓の音、聞こえちゃったらどうしよう」)
 いつも以上に近い距離。このままではいつきに聞こえてしまいそうだ。
 だが、心臓の音は鳴り止もうとしない。
 視界に人影が入ったことにより、はっと華呼は気づいた。
 すっかり忘れていたが、ここは校庭だ。当然周りには人がいる。
「い、いつまでこうしてるんでしょう」
 後ろから抱きしめられているため、いつきの表情が見えないのがもどかしい。
「オレの心が温まるまでかな」
 自信たっぷりの答え。けれど、いつきも心中はドキドキだ。
「わたしは充分あったかいですよ」
「じゃあ、もっと温めてあげようか?」
 ――え?
 聞き返すひまもなく、頬へのキス。
「いやだった?」
 呆然とした華呼を見るといつきは不安になった。もしかしたら、嫌なことをしたのかもしれない。
 思わず問いかける。
 しかし。
 華呼は、赤くなってふわりと微笑んだ。添えられた手にはぎゅっと力が込められている。
「しあわせですよ」
 いつも照れてしまって素直じゃない恋人。
 けれど……今日はとても素直で、いつも以上に愛らしかった。



イラストレーター名:碧川沙奈