●『星の天蓋』
空に見えるは満天の星。冬の澄んだ空気が夜空をより高く見せている。 誰もいない屋上で寄り添うようにしてその星々を眺めているのは、ルドルフと漣であった。 「寒くねえか?」 ルドルフは言いながら、漣に向かって手を差し出す。漣は照れているのか、少しだけ戸惑ってから、自分よりひとまわりは大きなその手にそっと自身の手を重ねた。 一拍置いてから、やんわりと握りしめられる手。さっきよりも少しだけ近付いた距離に赤面しながらも、漣は嬉しそうに微笑みを浮かべた。 「ぽかぽかですっ……」 漣のセリフに、ルドルフもわずかに頬を赤らめるとふいと視線を逸らせた。 肝心なところで照れてしまって、大切な気持ちの半分も言えやしないと、ルドルフは心の内で自分を叱咤する。 それでも、一度は逸らした視線を元に戻して、まっすぐと漣の瞳を見つめた。つないだ手に、ほんの少しだけ力を込めて。 「俺さ――漣に逢えて、こうやって一緒にいられて、すげえ幸せだぜ」 真摯な眼差しとつないだ手の強さ、そしてぬくもり。そこからルドルフの優しい気持ちが伝わってくるようだった。 「レンも……。レンも、ロルフ先輩と一緒に同じ時間を過ごせて、とっても幸せなのですっ」 クリスマスパーティーの舞踏会に参加した時、会場に流れる音楽にまぎれさせて漣がルドルフに伝えた言葉。 ルドルフには聞こえていなかったようだけれど、あの時音に溶けて消えた言葉が、今この瞬間、つないだ手のひらのぬくもりから伝わればいいと、漣もまたルドルフの手をきゅっと握り返す。 (「今のレンの精一杯の言葉、気持ち、伝わってますかっ……?」) 上目がちに様子を伺えば、交差する青。二人がよく似た色の瞳を持っているのは、偶然か、それとも必然か。 いっそう強く指をからめあって、出逢えたことに感謝する。二人がもっと近くなるには、まだ時間が必要だろうけれど。 (「きっと同じ想いだって、思ってもいいよな……?」) 屋上を吹く風は冷たい。けれど隣り合う体温はやさしく、そしてあたたかかった。
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