●『てのひらのホワイトクリスマス』
「雪の結晶、楽しみですねぇ〜」 雪菜は、嬉しそうにペットボトルの中を覗きこんだ。 ペットボトルをクーラーボックスにセットすれば、雪の結晶作りの準備は完了だ。後は結晶が出来上がるのを待つのみ。 「あ、その間に……」 雪菜は持参したバッグの中から、可愛らしい箱を取りだした。それをツカサの目の前にそっと置く。 「昨日の夜作ったシュークリームを食べませんか?」 お菓子作りの好きな雪菜が、夜遅くまでかかって作ったシュークリームだった。箱を開ければ匂い立つ、バニラとカスタードの甘い香り。 「お口に……合えばいいのですけど」 「ん? ほう、どれどれ……うまそうだな」 ツカサは目を細め、その中の一つを口に入れた。表面は香ばしくこんがりと焼け、中のクリームは滑らかな食感に仕上がっている。さっくりした生地の食感と、口の中でとろけるカスタードクリーム。絶品だ。 「うまいぞ。雪菜はお菓子作りが上手だな」 二つ目に手を伸ばしたツカサを見て、雪菜は満足げに微笑んだ。お茶を一口飲み、自身もシュークリームに手を伸ばす。 「雪菜」 幸せな気持ちでそれを食べていると、突然ツカサが雪菜に顔を寄せた。真顔で雪菜の口元を指す。 「クリームが口に付いてるぞ」 「え? あ……」 指摘され、雪菜は目をぱちくりさせた。鏡を出そうとバッグに手を伸ばしかけた時、ツカサの指に顎を取られた。銀色の髪が間近に迫り、舌がペロリと雪菜の口元を這う。突然のことに、ぽんっと沸騰しそうな勢いで赤くなる雪菜。 「……ほみゃ、え、えっと、ツカサ様」 「ん、とれたぞ……どうした、顔が真っ赤だが?」 ツカサはきょとんと言った。雪菜はその部分に手をやり、その感触を思い出して更に赤くなった。
楽しいティータイムが過ぎ、教室内は結晶の完成を喜ぶ声が上がり始めた。 そっとツカサがペットボトルを取り出すと、その中に出来ていたのは美しい六角形の結晶。 「ふふ、綺麗だな」 「……えへへ、とっても綺麗ですわね」 二人で顔を寄せ合い、結晶に見入る。ペットボトルに差し込む光を反射して、結晶はキラキラと輝いた。 「クリスマスの思い出がまた増えて嬉しいですわ」 雪菜は嬉しそうにツカサの顔を見上げる。ツカサは微笑んで頷いた。 「来年もこんなふうに、一緒に入られると良いな」 さりげない一言。でもその言葉は、雪菜の胸に染みるように響く。雪菜はまたほんのり頬を赤らめ、小さな声で「はい」と呟いた。
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