●『ふたりだけのクリスマス』
今日はふたりの、ふたりだけのクリスマス。
「海〜音、折角のクリスマスなんだし、これ着てくれよ♪」 ニコニコ笑顔で心太郎が差し出したのは、赤と白の衣装だった。この時期ならば誰もが一番に思い浮かべるであろう、それはサンタクロースの色。 今まで色々と彼からのプレゼントは貰ったものの、服を贈られるのは初めてだった。 「仕方なく、仕方なくなのだからなっ」 珍しいプレゼントに、口ではそう言いつつも内心は着てやる気満々で。海音は着替えの為に別室へと移り……。 「なななななんだ! これは!」 叫び声の後、どかどかと走ってくる音に続き、ばんと扉の開く音。 「どういうつもりだ! 心太郎!」 海音が纏っていたのは、キュートでそれでいてセクシーな、丈の短いサンタ・ガールの衣装だった。必死でスカートの裾を押さえてもじもじしながら、口から飛び出るのは文句の言葉ばかり。それでも着ちゃってるのはヒミツなのだ! 「いやぁ、凄く似合ってるぞ海音♪」 「ばかもん! ばかもん! ばかもん!」 嬉しそうに微笑みながら親指を立てる心太郎の姿に、多少は気分が悪くもないが……いかんせん、恥ずかしすぎる。頬を真っ赤に染めて、海音は握った両の拳を振り回した。 ぽかぽかと叩かれながらも、相変わらずニコニコしている心太郎。そのうち自分の方がばからしくなってきて、海音は肩を落とす。 そんな自分の動作を眺めながらいつまでも幸せそうに笑っている彼を見て、ふと思い返されたのは学園生活のことだった。 「……卒業したら余は……ん、私は。能力者を辞めてしまうけど。いろいろあったのだ……あった、ね」 「そうだな、結構長い間一緒にいたもんな……思い返すと色々あったもんだ」 ふたりで、そして、みんなで過ごした学園生活。些細なことから一大イベントまで、思い出されるのは本当に……様々な出来事だった。 「この先もこうやって心太郎とずっと一緒だけれども、なんとなく、私は、寂しさを覚えてしまうな」 「はは、そうだな…能力者をやめるとなると、みんなともあんまし会えなくなるだろうし……」 心太郎は少し言葉を切ってから、海音の顔を改めて見た。 「なぁ、海音、俺……」 何かを告白したそうな心太郎の唇に、海音の細い指先が触れる。 「それはもうすこし、あとできくから」 「……そうだな、また今度話そうか」
そうしてふたりは笑み合って。それ以上の言葉は要らなかった。
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