●『粉雪と灯りと聖夜の二人』
クリスマスパーティーの帰り。 聖夜の今日、どこもかしこもイルミネーションで飾られている。 司真と由衣は2人で手を繋ぎながら光にあふれた大通りを歩いていた。 手を繋ごうと誘ったのは司真の方だが、それでも少し照れてしまうのか、その頬は僅かに赤くなっていた。 ただし、由衣にしてもそれは変わらず、嬉しさと照れで司真以上に顔が赤い。 結局おたがいに意識しあいながら、あちこちの飾りを目で楽しむ。 そんなふうに歩いているうちに一際大きなクリスマスツリーを見つけた。 司真はふとその手前で立ち止まり、由衣に向かってほほえみかける。 「綺麗ですね。少し見ていきましょうか」 (「一緒に見てくれると良いのですが」) そう願いながらの誘いに、もちろん由衣はうなずいた。 「ええ、良いわ。素敵だし……」 2人は手を繋ぎながらツリーの近くまで寄り、きらきらと光るそれを見上げる。 その輝きに目を奪われながらも司真は隣にいる由衣から意識が離れない。 (「イルミネーションも、綺麗ですが……やっぱり由衣さんの方が気になります、ね」) 由衣の方はそんなことには気付かないようで、「綺麗ね」と話しかけてくれている。 司真はそれに頷きながら、けれど恥ずかしさで彼女を見ることが出来ない。 左手にある暖かくて柔らかな彼女の手を握り、ようやく口に出来た、言葉は。 「今日はありがとうございました。一緒に過ごせて楽しかったです」 たったこれだけ。 それ以上が続かず、少しうつむいた。 それでも、由衣にとってはそれで充分。 「あたしも、一緒に過ごせて楽しかった。こちらこそ、ありがとう……今日はずっと忘れられない日になるわ」 自分にとっての出来る限りの笑顔でお礼を返す。 司真は少しその笑顔に見とれ、赤い顔で笑んだ。 この愛しい人ともっと一緒にいたくて、ただ直接そんなことは言えないから、もう一度だけ由衣を誘う。 「せっかくですから、もうちょっと歩きませんか」 彼女は恋人の意図をすぐに読み取り、嬉しそうに「……ええ」と右手を少し握りしめた。 手の中には大きな司真の手。 もう少しだけ、彼との時間が続く。 誰に向けたのかは分からないけれど、一緒にいられるというそのことに、由衣は密かに感謝する。 「行きましょう、か」 「そうね……」 おたがいの手の温もりを確かめ合いながら、2人は歩き始める。 粉雪の冷たさにさらされても、その暖かさだけは変わることがなかった……。
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